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刀と杜番
抜き身の真剣を持ったままだったのに気づいたのは、街道を走り切った後だった。どうりでみんな俺を避けたわけだ。
ひどい息切れで、冷たい空気が喉を通るのが痛い。頭に血が戻ってくると、今度は焦りで脳が溺れていく。
稽古から逃げてしまった。今日は父上と刃を合わせることが、どうしても出来なかった。
仁崎家は格式のある鬼の家系で、俺はその次男として生まれた。俺は仁崎家の跡取りとして、肉体と精神ともに強い鬼にならなければならない。
朱越には仁崎家のほかに鬼の家系がいくつかある。その家との間に直接の争いがあるわけではないが、仲が良いわけでもなかった。互いの縄張りは踏まないようにした。隙があれば攻め込まれ、財産と家族を奪われる。鬼の隣人というのは、そういう関係だ。
そう父上に教えられるたび、将来が暗いものに思えた。しかし他家の鬼に脅かされるのは嫌だし、家族がそうされるのはもっと恐ろしいことに思えた。父上の言うことに従うしかない。はずだったのに。
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