後編

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後編

 結婚式で洋二(ようじ)さんと再会した。  感極まってすぐに走り出し、抱きつく。そしてキスをした。誰もが唖然としたと思う。僕もここまでの行動ができるなんて知らなかった。  この半年、ずっとあのアルファの元で従順なオメガとして過ごしてきた。  それなのに、人前でこんな水音を立てるキスができる自分に驚くも、また運命に会えた喜びのほうが勝った。  あの日の邂逅を経てから、僕たちは繋がりを絶っていた。  ようやく彼とひとつになれる。そう思って僕は洋二さんに抱き上げられ会場を後にした。その後のことは、きっと彼のお父さんたちが処理してくれるはず。 「洋二さん、僕、僕やっとあなたのモノになれる」 「ああ、(たくみ)今までよく頑張った」 「でも、僕、あの人に何度も……んん」  キスで言葉を塞がれた。  今日は僕と運命のアルファ洋二さんとの初夜だった。僕とあのアルファとの結婚式のあと、僕たちは運命の邂逅を果たした――と見せかけた。  本当は半年前のあの日、洋二さんと出会ったとき二人で相談して今日この日を迎えることにしていた。 「それは、仕方ないことだよ。君の復讐を遂行するには犠牲を払わなければいけないこと、僕も理解していたよ。でも嫉妬はしたけど」 「……はい」  そしてまたキスを仕掛けてくる洋二さん。  ここは初夜のために予約していた高級ホテルのスイートルーム。一週間も予約押さえたって……洋二さんと僕はこれから(つがい)になる予定。  邂逅を果たしてヒートを起こしたけど、強い抑制剤の注射を打たれて僕のヒートは収まっている。  あの後、いろんな処理があったから。  僕と洋二さんが結婚式場から走り出すと、そこにパトカーが何台も駆けつけた。そして、あのアルファが殺人容疑で捕まったのだった。  半年前、洋二さんは僕の秘密を聞いたあと、結婚したいとすぐに言ってくれた。  でも僕は復讐があるし、これからも好きでもない男に抱かれなくちゃいけない。そして刑務所に入る覚悟はできているので無理だと言ったら、なぜかご両親を紹介された。  ご両親は国会議員で、今まさに無秩序なアルファを取り締まる法案を作っている最中だと言う。国会議員の中には、(つがい)を愛するアルファが多い。以前から問題になっていた「(つがい)解除によるオメガの死」アルファはオメガが死ぬとわかっているのに、(つがい)解除が後を絶たなかった。これはもう法整備をするべきところまできていると一部の団体から申請がきていた。  洋二さんの父親はオメガの妹を(つがい)解除で亡くしたことがあるので、長年その活動をしてきた。同じアルファとしてそんなアルファを許せないと、涙ながらに僕の話を聞いてくれた。  そして、(つがい)解除が「殺人罪」になるという法案が半年後に施行されることを教えてくれた。僕に、その第一号被害者家族にならないかと提案してきた。  僕の兄を、家族を殺された身内として被害届を提出すれば、捜査に乗り出してくれると言う。被害届が出てからアルファを逮捕するまで。逃げられないように、どうにかその男を国内に留めてくれればそれでいいと言われた。  だから僕は法が可決され大々的なニュースになるその日、結婚式を挙げることにした。そして被害届けは僕の両親が警察に提出した。結婚式に僕の両親が来てないことを疑問に思わないほど、あのアルファは僕を手に入れることに必死だった。  そもそもすんなり付き合えたのも、僕の兄を忘れていなかったから…あれ以来、まともな付き合いができなかったことは調査会社に調べてもらっていた。そんな数年間を過ごしていたアルファは、昔恋したオメガによく似た僕を見て火がついたんだ。  復讐相手が単純すぎて、正直がっかりしたけど、そのおかげですんなりと僕の復讐は進んでいった。  そして洋二さんはちょうど結婚を控えた友人に頼み込み、その日隣の会場を抑えた。  僕たちの会場も、実は洋二さんが抑えた。人気の式場が半年前に急にとれるわけがない。だが、僕と結婚して早く(つがい)契約をしたかったアルファは、友人が式場関係者でこの日キャンセルが出たのを優先的に回してくれたと嘘をついたら、すんなりとその日式を挙げることを承諾してくれた。  結婚までの間、僕は怪しまれないよう、どうしても断り切れない雰囲気になった時に何回か彼に抱かれた。とてつもなく辛かったけれど、兄の仇を取らなければ僕は幸せになれない、そんな気がして耐えた。  すべてが順調に進み、僕たちの思惑通り、結婚式の日にあのアルファは僕という花嫁を失い逮捕された。言い逃れできないくらい周りの友人たちも兄とのことを知っていたので、証言が揃い過ぎた。  アルファは、大好きな兄と同じ花のフェロモンを知った日に最愛のオメガを失った。これは最高の復讐だと、洋二さんが言ってくれた。  僕は洋二さんの胸にそっと顔を埋める。 「好きな人に裏切られることって、辛いですよね。兄と同じ……まではいかなくても、相応の絶望は味合わせること、できたかな?」 「ああ。アルファにとってオメガに裏切られることは相当な痛手だよ。それにあいつは生きているうちに刑務所を出られない。人を一人殺してるんだ。これから獄中で償ってもらおう。これで君のお兄さんの無念、少しは報われるといいね」  僕は彼を見上げる。 「兄は何をしてももう帰ってこないけど、でもっ」 「ああ、巧。本当によく頑張った」  兄に頭を撫でてもらうのが大好きだった。そんなこと、彼に話したことないのに、彼は兄と同じように優しく頭を撫でてくれる。 「愛してるよ、巧」 「僕も……洋二さん」  この日初めて彼と体を繋げた。初めは意識のある交わりだったけれど、段々と薬の効果が切れて、最後は発情状態になり(つがい)になった。  あのアルファと全然違う。本当に好きな人と繋がることがこんなに幸せだと初めて知った。  そして僕の復讐は終わった。    ――fin――
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