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五月半ば。ちらりほらりとクラスから人が減っていく。警察沙汰になったのもあったが、全員がうっすらと気づいていた。異世界に渡ったのだと。
「そんなに俺が怖いか!? 俺は絶対お前らを逃さないからな!」
この時季になって木村のことは毎年問題になっているのだとクラスメイトたちは知った。なぜか毎年、その問題が立ち消えになっているのは不思議だが。一説には木村が訴えた生徒の家族に脅しをかけているなんて話もある。
「木村先生がそういう態度だから、みんな逃げるんじゃないですか?」
拓人はこらえきれずに立ち向かう。瞬間に拓人の顔面に拳が練り込まれた。
「俺が絶対だって言ったろう! 今度逆らったら殺すからな!」
「拓人!」
椅子から転げ落ちた拓人に歩み寄る美晴のスカートを木村は盛大に捲る。
「何すんのよ!?」
美晴は木村を引っ叩こうとするがその手を掴まえられ吊るされた。
「どんな些細な反抗も許さん! もう俺の噂は聞いているだろ? 無事に高校卒業したかったらせいぜい大人しくするんだな」
はははと愉快そうに笑って木村は教室を出ていく。まだ授業の途中だった。
「もうやだ!」
美晴はさめざめと泣く。その横で拓人も項垂れる。
「みんなで行こっか? 異世界に」
沈黙に包まれたが、クラスメイトたちの気持ちは一つだった。その中、蒼也だけが静かに教科書を読んでいた。
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