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その夜。拓人は異世界大使のSNSのアカウントに相談を持ちかけた。
『異世界に行くために持っていく必要のあるものはありますか?』
『ございません。あちらは鏡の世界です。こちらの世界にあるものがあちらにあります。ただ、人が違うだけでございます。異世界のお引越しは気軽にできますよ』
『何人かで行く予定なんですが、違う異世界に行ったりはしませんか?』
『ございません。私は私たちの異世界への引っ越しを推奨するために参ったのです。お友達全員同じ異世界に渡れますよ』
『本当に二度とこちらに帰れないのですか?』
『帰れません。熟慮の上、お引越し願います』
拓人は肚が決まった。日曜日から月曜日に変わる瞬間、鏡に飛び込む。クラスメイトたちの意思も確認して、ほとんどが賛成だった。蒼也を含む何人かを除いて。
「蒼也、本当に行かないのか?」
「うん。僕はこっちにいる。今んとこ何もされてないし」
教室でこそこそそんな話をしていると扉が開く。
「おい……。昼休みだぞ?」
現れた木村に拓人が食って掛かる。
「知るか。俺が絶対だって言ったろう? 授業を始める。今いない奴は評価を下げるからな」
拓人は机の下で拳を握りしめる。あと少しで木村ともお別れだと。
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