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「じゃあ今度は異世界で」
金曜日の夕方に美晴と別れた拓人は一人で家に向かう。木村のことを考えると腹立たしくて仕方ない。だが、蒼也は大丈夫なのだろうかと不安になる。
中学から一緒だったのに異世界へ行けば二度と会わない。
「……仕方ないか……」
拓人がやめれば他のクラスメイトも異世界への引っ越しはやめるだろう。もう引き下がれはしない。
日曜日の昼に拓人は蒼也に電話をかけた。最後にもう一度誘おうと。
「もしもし。蒼也か?」
「うん。何?」
「なぁ本当に行かないのか? 俺らが異世界に引っ越ししたら、木村は必ずお前に目をつけるぞ?」
「大丈夫だよ。うまくやる。それより拓人も元気でね」
「ああ……。蒼也もな」
「うん」
無理なのだと悟った。諦めよう。蒼也ならきっと上手くやれる。そう思うことにした。
夜までダラダラと過ごす。家族は拓人に異変は感じなかったようだ。
そして、日替わりの一分前。拓人は鏡の前にいた。日替わりが近くなるに連れて鏡から光が発せられる。こんなことになっているとは気付かなかった。こんな夜中に鏡を見ることもなかったから。
0時ちょうど。拓人は鏡の中に飛び込んだ。身体がふわりと浮く感覚がして気づいたら鏡は拓人の背にあった。さっきまでいた自宅と何も変わらない。
家の様子を探るといたはずの家族の姿がどこにもなかった。
「スマホはあるのか?」
急いで自室に向かって見つけたスマホで美晴に電話をかける。美晴はすぐに出た。
「美晴、来たのか? 俺ら異世界に?」
「分かんない。でも家族いないし……」
「手分けしてこっちに来たやつに連絡取ろう! それで明日学校で会おう!」
手が汗ばむ。これで木村から開放される。自由になったはずだ。
拓人は震える手でスマホを置き、深呼吸をする。
「これからだ。これから何をするかだ!」
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