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異世界にお引越し
ある日突然、異世界大使を名乗る動画配信者が現れた。覚めた目で見ていた世の中も何かしら変だと気づき始めたのは、彼が現れて一月あとだ。
「日曜日から月曜日の日替わりの瞬間、鏡に飛び込むと異世界へと渡れます。ですが二度とこちらには戻って来れませんので、決断には熟慮の上でお願いします」
少しずつ。少しずつだが行方不明の者が増えている。それらは何かしらの問題を抱えていた人が多い。いじめに遭っていたり、仕事のストレスを抱えた者。報道が発表する行方不明者はそんな人ばかりで、皆がうっすらと気づき始めた。異世界に渡ったのでは? と。
「あ〜異世界渡ろうかな?」
「またそんな……」
五月の連休明けの教室。拓人がぼやくのを美晴は見逃さなかった。
「そんな上手くいく訳ないじゃん?」
「でも担任の木村、ムカつかない?」
クラスメイト全員が思っている。木村はパワハラセクハラが多く生徒からも散々嫌われている。高校生になってはじめての担任が木村だなんて不運にも程がある。
「頑張って入った高校なのにさ。蒼也もそう思うだろう?」
「別に僕は……」
同じ中学だった蒼也に声をかけるが、蒼也は昔から内気で自ら言葉を発信することは少なかった。
「でも蒼也みたいのは木村にとっていじめやすいんじゃないのかな?」
「そんなことないよ。僕は目立たないし」
なんてやり取りをすると教室の扉が開く。始業二十分前だ。
「なんだ? 全員集まってないじゃないか? クラスの半数は遅刻とはな」
拓人の額に青筋が浮かぶ。
「まだ二十分前ですけど?」
「関係あるか。俺が遅刻だと言ったら遅刻だ。このクラスでは俺が絶対なんだ」
こんなことは日常茶飯事だった。
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