うそにあい

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 冬の恰好をしているともう暑いと言えるくらいの季節が訪れている。晴れやかに着飾った会場で話し声が聞こえた。それは親し気な声となる。  結婚式場の控え室。新婦の部屋ではこのお話の主人公と言える彼女がいるが、今日の主役ではない。ウエディングドレス姿なのはその親友だ。  適齢期よりちょっと若いけど、昔から付き合っていた彼氏と親友は結婚する。ただお祝いばかりが浮かんでいる。誰の反対も当人たちの不安なんてものこの会場には全くない。 「羨ましい」  美しい新婦に向けての彼女の言葉。別に恨み言ではなくて、単なる憧れ。そして本音なのだ。  その言葉に新婦は一つため息を吐いて「だったら、結婚しちゃいなよ」と返している。  そう言われてもという顔をして彼女は新婦に「相手が居ないもん」と頬を膨らませる。こんな素直な会話をできるのは本当に二人が親しいから。 「まだそんなことを言うか! 諦めて落ち着きなさい」  ちょっと怒った新婦の言葉に彼女は項垂れて「別に私は落ち着いてるよ。そんな恋人をとっかえひっかえしてるみたいに言わないでよ」と弱々しく言い返すけど、新婦からはまだ強い言葉で「わかってる。おたくがどれだけ一途なのか」とプンプンと聞こえるくらいの表情になんている。  怒っている新婦もいつものことなんだとばかりに椅子に座って「なんで告白しない? なんで付き合わない? なんで結婚しない?」なんて疑問を連続で放つ。  彼女は新婦に用意されているドレッサーにうつ伏せて「だって、断られたら怖いんだ」とくぐもった返答をする。これに新婦は更に呆れた。 「彼とおたくに限って言うと、そんなことにはなり得ない!」  高らかに語って、新婦が彼女に指さしていた。  そこからちょっと離れた新郎の控え室でも似たような風景がある。こちらにはもうひとりの主人公と言える人物がいるがそれはやはり新郎ではない。 「年度明けのこんな忙しい日に結婚式なんて迷惑なことだ」  今日は四月一日。あらゆる会社では忙しさがピークなとき。そして彼もまだまだ新人と言える年なのでその忙しさはある。  だけど新郎に当たる彼の友人は「現場作業員の俺にはそんなにカンケーないからな」と職種による利点を生かしている。そんな新郎を彼は白い目で一度見てから「一応、おめでとう」なんて祝福を送る。  ニコッと新郎は少年のような顔をして「おう! ありがとな」と返した。すると彼は「しかし、お前らが結婚するなんて」と呟いている。 「自分たちのほうが先に結婚すると思ってたのか?」  ぽつりと語った彼の言葉に直ぐに新郎が返すけど、彼は首を傾げて「そんな風には思ってないんだが?」なんて返すのだが彼の顔は焦っている。それを分かった顔で新郎は「実際俺たちはそう思ってたんだけどなー」くらいの返事がある。 「俺と彼女は付き合ってもないのに結婚なんて有りもしないだろ」  こちらも彼女と新婦の話と良く似ている。だけど、それは似ているのではない。同じことを話しているだけなんだ。 「だから、今日のめでたい日に告白しちゃえば?」 「こんなに友達で居ると、タイミングがもう無くなっちゃってるんだよ」  新婦に言われて、かたくなに断る彼女。 「好い加減、彼女を幸せにしろよ」 「あいつに振られるくらいなら、今の友達のポジションで構わない」  新郎に言われて、彼のほうも譲らない。  新郎新婦の二人は片手にスマホをもって時折タカタカとメッセージを送っている。彼女も彼もその相手は重々理解していた。新しく夫婦になる二人は仲睦まじく、メッセージアプリで会話をしていた。  サクッとスマホの画面を見た新婦は「あたしらのキューピッドの二人には幸せになってほしいんだよ」なんて彼女に語る。  この結婚式の二人を結び付けたのは、彼女と彼だ。元々ふるーい、こどもの頃からの友達だった二人は学生時代に親しくなった、彼女の親友と、彼の友人を引き合わせた。そこには直ぐに恋が実り、愛を紡いで、今の結果になっている。  若干聞き飽きた印象のある彼女は「ハイハイ。わかったよ。だけど、私たちは単純に友達を紹介しただけ」なんて言うと「うん。だけど、愛するダーリンとめぐり合わせてくれた」なんて熱い言葉を新婦が返してくれる。  彼女はもう慣れた新婦のおのろけにも動じないでいるが、それを見た新婦はまたスマホに向かっている。
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