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「どうしたんだい? おかしな顔をして」
軽くだけど先に声をかけたのは彼女のほうで「ちょっと新婦さんに呼ばれて」と彼が言うと「アレ? あたしは新郎さんにだよ」と彼女も新婦に言われて歩いてた。二人ともが友達のことを面白おかしく呼んでいるのは愛嬌だが、それにしてもお互いが不思議な顔になっていた。
だけど彼女だって新郎とは友達で、普通に話す機会もある。それは彼のほうだって同様なので、二人は式の時間もあるからとその場で話し込むこともなく、それぞれの控室に向かう。
ノックに返事があって部屋に入ると「着飾ってるね」と新郎の姿を見て彼女は言うけれど「嫁のほうも言われてるんだろうな」と新郎は彼が新婦のほうに向かったのを知っているみたいだ。まあその辺は彼女は気にしないで「なんか私に用事?」と聞くのは式場スタッフが結構時間を気にしている様子があったから。
「実はね。俺も驚いたんだけど、さっき奴と話してたら、どうやらあいつに好きな人ができたらしいんだ。結婚の話も進めるくらいに」
少し前置きを重ねてから新郎は話し始めた。
「あの子さ、プロポーズされたんだって。それで悪くない話だから受けようかって話してたよ」
その時に新婦の控室ではこちらは前置きもなく「馬子にも衣装だな」と彼が言い切ると、新婦が新郎と同じ意味のことを直ぐに伝えていた。
「ふーん。そう、なんだ」
彼と彼女の答えは全く一緒だった。その言葉に躊躇いがあったのも含めて。
新郎のほうはちょっと不安気な表情で彼女に「構わないのかい?」なんて声を掛けるけど、それを聞いた彼女は「えっと、そうだ。祝福してあげないとね」なんて語っているが今にもその瞳には涙が浮かんでいる。
一方の新婦の控室では「どうすんだい?」と腕組をしてウエディングドレスが似合わない雰囲気で彼のことを睨んでいて「そうだな、うん。わかった。祝い事が増えたのか」という風に彼は頷いて答えているが顔を挙げない。
「ちょいと、お前は本当にそれで構わないのかい? あの子が結婚しちゃって、それでも祝うなんて嘘つけるの?」
明らかに怒った口調の新婦がいて、それに彼は「そうずっと思ってたから」と小さくだけ答えて部屋を離れる。
こんな様子なのは新郎の部屋もそんなに違わない。彼女は幸せそうじゃない笑顔を見せて「残ったのは私だけか」くらいの言葉を放っているが、これには新郎は言葉を返せてない。新婦と彼、新郎と彼女、の話の違いはこのくらいだ。そして彼女も部屋を離れる。
さっきも通った道だから当然に二人はすれ違うが、その時にはお互いの顔も見ないで通り過ぎて、各々の友達のもとに急いだ。
バタンと閉めたドアに背を預けるように彼女は新婦の控室に戻った。だけど新婦が見たその彼女は涙を流して泣いている。
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