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「あの人が居なくなる。これからあたしはどうして日々を暮せば良いのかわからない!」
さっきまでは強がりなつもりなんてなかった。本当におめでとうって言おうと思っていたのに彼女は新郎の控室を離れて、歩いていた時に段々と自分の本心に気が付いていた。自分に嘘を付いていたことに。
ため息を吐いて新婦は親友である彼女を抱きしめて「やっと素直になったんだね」と優しく声を掛ける。
そして新郎の控室には彼が戻っていたが、その姿は死人の如く青い顔になって、フラフラと歩くと椅子に座って言葉の一つもない。
「自分の置かれた状況にやっと気付いたんだろ?」
当然全てを知っている新郎の言葉を聞いて彼は顔を挙げると「彼女のことが世界で誰よりも好きなんだ」と一言だけを呟く。
もう彼女も彼にも言葉は必要なかった。全部自分の嘘に気が付いたら、それぞれは他人の幸せなんて祝ってられない。好きな人はもちろん結婚する友人までも。
だから彼女と彼は部屋を離れる。もちろん友人である今日の主役でこの話のわき役はその背中を押すために「がんばれ!」と同じ言葉を掛ける。
悠長に歩く気もなくてドアを開いたとたんに走り出した。そんなに距離もないので二人は直ぐに出会う。ちょっと戸惑ってしまうけど、のんきにもしてられない。
「話したいことがあるんだ」
先に言葉にしたのは彼のほうだったけどそれは紙一重で彼女も「私も」と即座に答えている。だけど廊下で立ち話ということもできないので二人は丁度横にあったドアに向かう。
明るく晴れ渡った空が眺められるのはこの結婚式場にあるバルコニーで、その場所は新郎新婦が登場する演出に使われることもある。
二人はバルコニーの柵に手をついて外を眺めた。急いだのだけど、実際相手を前にすると言葉がなくなっている。それでも時間なんてない気がしたので「俺から話しても構わないか?」と彼が聞く。
しかし、彼女は自分にとって悪い報告になると思っているから首を横に振った。そして「私から話させて!」と前置きすると彼が話す機会を与えないように続けて語る。
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