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【20】暴力
四人は直ぐに仲良くなった。
特に桐生と桜庭は、桐生は格闘技、桜庭はピアノと英会話の習い事をしていて部活に入っていないし、帰る方向も同じなので、お互いの待ち時間を一緒に過ごしたり、一緒に帰ることも多かった。
少しすると桐生が桜庭に「桐生くんってやめない?『くん』はいらないよ」と言い出した。
「じゃあ、あだ名とか?」
「あだ名は特に無いから、呼び捨てでいい」
「よ、呼び捨てって…」
桜庭が戸惑っていると、「じゃあ、俺は莉緒って呼ぶから」と桐生が言った。
谷川が「何で俺達は名字で、桜庭くんは名前呼びなんだよ!」とツッコむ。
「だってサクラバよりリオの方が呼びやすい」
アッサリ言う桐生に、綾野が呆れたように桜庭に向かって言った。
「桐生ね、時々天然発言するから。
驚かないでね」
「天然ってなんだよ!」
「事実じゃん」
谷川も笑う。
「まあ、いいや。
じゃあ莉緒は何て呼んでくれる?」
桐生が楽しそうに言う。
「じゃ、じゃあ駿くん、保くん、吾朗くんで…」
桜庭が赤くなって言うと、谷川が「かわいー!」と言って、「じゃあ俺も莉緒くんって呼ぶね!俺は桐生と違って失礼なヤツじゃないから~」と続けた。
「俺も~。桐生、お前も今日から俺を『保くん』って呼べ!」
「やだよ!気持ち悪りぃ!」
そう言う桐生に綾野が頭にチョップして、桜庭と谷川が笑った。
四人で日に日に仲良くなっていっても、桜庭はやっぱり瀬名と離れたことが寂しかった。
それに神田と水元も3年になって部活が一層忙しくなり、神田は部長になった。
大島も美大の受験に向けて美術専門の予備校に通うことになり、五人で出掛けることはほぼ無くなってしまった。
それでも大島達と以前と変わり無くグループラインでやり取りしたり、廊下で偶然見かける瀬名に桜庭の胸は高鳴った。
ただ、ひとつ嬉しいこともあった。
『お助けマン』との関係が途切れ無かったことだ。
『お助けマン』はやはりクラスが違うらしく、机の上に物が置かれることは格段に減ったが、靴箱の中に食べ物以外の差し入れが入るようになった。
『お助けマン』がクラスが違うのに、どうして自分の必要と思っている物が分かるのか、桜庭には考え付かなかったが、そんなことは関係無くただ嬉しかった。
そんな4月の終わり頃、桐生が格闘技の大会に出ることになった。
綾野と谷川は「優勝しなかったら何か奢れ!」と桐生に言って、桐生に「なに勝手なこと言ってんだ!」と言い返されていた。
桜庭も「駿くん、頑張ってね!」と応援した。
桐生は嬉しそうに「おう!」と答えた。
そして桐生の大会の前日、桜庭のスマホに知らない相手からメールが届いた。
『実は桐生くんは怪我をしていて、それを隠して大会に出場しようとしています。
桐生くんの身体が危険なので、今回の大会に出場しないように桐生くんを一緒に説得してくれませんか?
僕は桐生くんの怪我の状態を良く知っています。
桐生くんもそのことを桜庭くんに指摘されたら、きっと説得に応じてくれると思います。
それを桜庭くんに伝えますから、明日の放課後3:30に第二体育倉庫に来て下さい。待ってます』
桜庭はビックリしてスマホを見つめた。
駿くんが怪我してる…
もしそのまま大会に出て、怪我が酷くなったら?
桜庭は『必ず行きます』と返信した。
翌日、桜庭は本当はピアノのレッスンがあったが、教室に日にちを振り替えてもらった。
昼休みに綾野と谷川がニヤニヤ笑って、「桐生~今日応援に行ってやるから」と言い出した。
桐生は「来んな!」と一言言って桜庭を見た。
「莉緒は今日はピアノのレッスンがあるんだよな?」
「う、うん…」
「そっか…何時から?」
「7時」
「結構遅いんだな」
「その先生人気があって、今月予約するのに出遅れたから」
「ふうん」
桐生は何か言いたげな顔をしている。
桜庭はやっぱり怪我のことだろうかと思った。
桐生の大会が始まるのは8時。
社会人も出場するから遅いんだと言っていた。
その前に怪我の話を聞けば、説得する時間は十分ある…。
桜庭は放課後になると、時間通りに第二体育倉庫に向かった。
第二体育倉庫は体育館からも離れていて、グランドの外れにあり、主に外で使う体育の備品が置かれてある。
桜庭はこんな人気の無い場所で話すのだから、桐生は必死で他人に怪我を隠しているんだと思った。
第二体育倉庫の扉を開けると、中に一人の生徒がいた。
身長は180センチを軽く越えていて体格が良い。
何かスポーツをやってる人だなと桜庭は直感した。
その関係で駿くんの怪我を知ったのだろうか?
「桜庭くん、よく来てくれたね」
その生徒は人の良さそうな顔でホッとしたように言った。
「はい。メールありがとうございました。
それで桐生くんの怪我というのは…」
「桐生くんの怪我はね…」
その生徒は桜庭の横をすり抜けると、扉に向かった。
「え…?」
ガチャリと鍵を掛ける音が静かな倉庫に響いた。
その生徒は扉を背に振り返ると、ニタッと笑った。
「俺のこと、憶えてない?」
桜庭は反射的に胸のバッチを見た。
同じ3年生だ。
だが、見覚えが無い。
「ごめん。何処かで会ったっけ?」
「ショックだな~。
バレンタインデーにチョコレート渡したじゃん」
桜庭はその時、ハッとした。
暗がりでハッキリとは見えなかったが、裏門を出た時の五人の内の一人…。
『こいつね、1年の時から本気で桜庭くんが好きなの。
付き合ってやってくんないかなあ』
あの時言われた言葉が、桜庭の頭の中に蘇る。
桜庭の顔色が変わったのを見て、その生徒が喋り出す。
「思い出してくれた?
あの時は本当に悔しかったよ。
あの桐生のせいで…。
それからもずっとチャンスを狙ってたけど、桜庭くん中々一人にならないし、桐生と顔見知りになったみたいで…。
そしたら桐生と同じクラスになっちゃって、しかも仲良くなっちゃうんだもん」
その生徒がジリジリと桜庭に近付いてくる。
桜庭も少しずつ後ずさる。
「だからこの日を待ったよ。
桐生に邪魔されない日を…。
ねえ、俺と付き合ってよ」
桜庭は首を横に振った。
「頑固だな~。
でもそんな莉緒も好きだよ」
「俺…君を知らない…」
「今からたっぷり教えてあげる」
桜庭はその生徒の横を走ってすり抜け、扉に向かおうとした。
だが腕を捕まれ、マットレスの上に投げ飛ばされた。
「いたっ…」
「俺の名前は鈴木龍次。
莉緒は特別に龍次って呼んでいいからね」
鈴木が巨体に似合わず素早く倒れた桜庭の上に馬乗りになる。
「どけよ!」
「かわいい…本当にかわいいなあ。
まずキスしようか?」
桜庭はゾッとして悪寒が走った。
鈴木の顔が近付く。
「いやっ…絶対いやだっ…!」
桜庭が腕を振り回して鈴木を押し退けようとする。
桜庭の手が鈴木の頬をほんの少し掠めた。
「イッテェ…」
鈴木が低く呟いた瞬間、桜庭の左頬に衝撃が走った。
バッシン。
鈍く重みのある音が響く。
桜庭の口の中に血の味が広がる。
「キスして下さいって言えよ」
「い…いや、だ…」
バッシン。
今度は右側の頬を張られる。
「龍次、キスしてって言うんだ」
「…や…いや…」
バッシン。
バッシン。
バッシン。
連続して左右の頬を思い切り平手で叩かれる。
その度にビュッと風を切る音がする。
「言え!」
「…っ…」
桜庭は目の前がグラグラ揺れた。
唇から血が流れ落ちる。
「言えって言ってんだろ!」
一際強く叩かれて、桜庭は呻いた。
それから怒鳴られながら、数え切れない程、叩かれた。
桜庭は意識が朦朧としてきた。
鈴木はふうっと息を吐くと、「あー顔が血だらけだ。これじゃキス出来ないな~」とノンビリと残念そうに言うと、桜庭の制服のジャケットを脱がそうとする。
桜庭がそれでも抵抗しようとすると、今度は鳩尾に衝撃が走った。
ドスッ。
鈴木の拳が桜庭の腹にめり込む。
「かは…ぁっ…」
桜庭の意識が一瞬遠退き、身体がくの字に曲がる。
「もう抵抗は無しだよ。
面倒臭くなってきちゃった。
さあ、楽しもう」
鈴木がジャケットを脱がすと、ネクタイを外され、一気にワイシャツを破られた。
「綺麗だ…好きだよ、莉緒」
鈴木が桜庭の肌に触れたその時、桜庭のスマホが鳴った。
桜庭は一気に目が覚めたような気がした。
力を振り絞って身体の横に投げ捨てられた制服のジャケットのポケットからスマホを掴む。
鈴木がまた桜庭の腹に一撃を加える。
桜庭はそれでもスマホをタップし、口元に持っていくと画面も見ずに「助け…だいに、たいいくそう…こ…」と呟いた。
鈴木がスマホを奪うとチッと舌打ちをして、スマホを桜庭の足元に投げた。
「まだそんな力が残ってたんだ?
流石俺の莉緒だね。
でも無駄だよ。
鍵は掛かってるし、逆にソイツをボコボコにしてやるよ」
そして桜庭の胸の突起をペロペロと舐め出した。
「本当に莉緒は綺麗だ。
乳首もこんなにピンク色で…」
うっとりと言う鈴木の頭を桜庭が震える手で引き剥がそうとする。
鈴木はバシッとその手を払いのけると、また桜庭の腹に拳を食らわせ、首に手をかけた。
「面倒臭いって言ったよね?
これ以上抵抗したら…分かるよね?」
ギリギリと首を絞められ、桜庭は涙を零して頷いた。
それからは地獄のような時間だった。
鈴木は桜庭の上半身を舐め回し、噛んだり吸ったりを繰り返した。
桜庭はブルブルと身体を震わせ続けた。
10分か、30分か、1時間かも分からない。
鈴木が桜庭の制服のスボンのベルトを引き抜き、ズボンと下着をずらした。
何の反応もしていない桜庭自身をぎゅっと握られる。
「やめて…それだけは…やめて…」
桜庭は泣きながら懇願した。
鈴木はそんな桜庭の言葉は全く耳に入っていないようで、ホウッと気味の悪い感嘆の溜め息を吐いた。
「なんて綺麗なんだ…」
鈴木の吐息が桜庭自身に吹きかかる。
桜庭は血塗れの唇を噛んだ。
その時。
ガチャリと音がしたかと思うと、扉がバンッと凄い音を立てて開いた。
次の瞬間、何かが叩き付けられる音がした。
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