【36】語りかける目

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【36】語りかける目

そうして文化祭の初日がやってきた。 桜庭のクラスではメイド役の生徒用にと、メイクアップの専門学校に行っている姉がいるクラスメートの協力により、ヘアスタイルからメイクまで完璧に女装させられた。 メイド服はオーソドックスな白と黒のフリフリの超ミニスカートで、白いニーハイも履かされている。 桜庭のヘアスタイルはツインテールで、長い髪の先をクルクルと巻かれていた。 「この子、やりがいあるわー!」とメイクをしてくれる人達もノリノリだ。 桜庭はもうどうにでもなれ!と言う気分だった。 だが、仕上がった桜庭を見て、クラスメート全員が息を飲んだ。 特に桐生は、桜庭に抱きつこうとして、クラス全員に止められた。 「桐生、落ち着け! メイクやズラが崩れたらどうすんだよ!」 桐生が珍しく舌打ちする。 「おい、澤村! 俺と莉緒の働く時間は一緒なんだよな!? 勿論、休憩時間も!」 澤村は仕方無いな、という風に笑った。 「最初からその予定だけど」 「よし! 莉緒、俺から絶対に離れんなよ!」 「…う、うん」 桐生の余りの迫力に桜庭は後ずさった。 桐生と桜庭が並んで受付をするA組には長蛇の列が出来た。 中には写真を撮らせて下さいとか、握手して下さいとか言ってくる人達も大勢いた。 桐生と桜庭は澤村から、お客様の言うことは絶対きくこと!と厳命されていた為、仕方無く笑顔で対応していた。 休憩時間になって、やっと仕事から解放されると、桐生と桜庭は学校内を見て回ることにした。 桐生がバックヤードでさっさと制服に着替えたので桜庭も着替えようとすると、桐生に慌てて止められた。 「莉緒、ホントに超かわいいよ。 美少女過ぎる。 俺、そのままの莉緒と学校周りたい」 桜庭は真っ赤になってやだやだと言ったが、桐生に敵う訳も無く、そのまま引き摺られるようにクラスから連れ出された。 廊下で行き交う生徒や外部から来た学生、保護者達が桜庭達を振り返る。 「スッゲーかわいい!」 「ここ男子校だよな!?」 「隣りの男子も超イケメン!」 「美男美女のカップルだなー…!」 桜庭は恥ずかしくて顔から火が出そうだった。 擦れ違い様、写メを取られたりもする。 すると、「あー!あれ、莉緒ちゃんじゃない!?」と神田の大声がして、桜庭は思わずビクッと肩を竦めた。 ドドドッと数人が走ってくる足音がして、桜庭が恐る恐る顔を上げると、制服姿の大島、赤いハッピに鉢巻きをした神田、浴衣姿の水元が目の前に立っていた。 「やっぱり莉緒ちゃんだ! チョーかわいー! 写メ!写メ!」 桐生が神田をジロッと睨む。 「あ…の…桐生くん、莉緒ちゃんと写メ撮っていいかなあ~?」 桐生がムスッとして頷く。 神田達は交互に桜庭とツーショットを撮った。 その後、水元が桜庭に「莉緒くんもこれからハルのライブ観に行くの?行くなら一緒に行く?」と訊いてきた。 桜庭は反射的に腕時計を見た。 今12時30分。 桜庭は一言「行かない」と言った。 「え…」 神田と水元が顔を見合わせる。 すかさず大島が、「莉緒くんも忙しいんだよ。明日もあるし」と言って、「じゃあな、莉緒くん」と桜庭に背を向け歩き出す。 「じゃ、じゃあね、莉緒ちゃん」 神田と水元も大島の後を追う。 桐生は桜庭の横顔を見つめていた。 翌日もA組は大盛況だった。 翌日は日曜日だったせいか、昨日より更に学校内は混んでいた。 桜庭はまた周りに騒がれたが、昨日のこともあってそんなに気にならなかった。 桐生と桜庭は昨日の時間通り仕事を終えて、桐生の希望でまた桜庭はメイド服のまま学内を回った。 昨日は間に合わなかった大島と神田と水元のクラスにも顔を出した。 その内2時を過ぎて、桜庭はそろそろクラスに戻るのかな、と思っていた。 文化祭は3時までだからだ。 たが桐生は、「ちょっと屋上行かない?人があんまり多くて…少し風に当たってのんびりしたい」と言い出した。 桜庭は後夜祭もあるし、片付けまでゆっくりするのもいいなと思い頷いた。 瀬名は1時に15分のソロステージを終えて、次の軽音部の部長のステージを見届け、舞台袖で演奏を終えた部長を交え部員全員でハイタッチを交わすと、一人屋上に来ていた。 瀬名はスマホを取り出して、昨日のグループラインを見返した。 大島達とにっこり笑っているメイド姿の桜庭の画像が貼られている。 瀬名は昨日も今日もA組を覗きに行っていた。 桜庭が余りにかわいくて綺麗で女の子にしか見えなくて、ビックリして固まってしまった。 そして桜庭の隣りには、いつも桜庭を守るように桐生が立っていた。 桜庭が昨日、自分のライブを観に来てくれなかったのは神田のトークで分かっていた。 たぶん今日も来てくれていないだろう。 分かり切っていた筈なのに… 瀬名は日陰に横になって青い空を見上げた。 どこかで、最後の文化祭なんだから…と期待していた自分が滑稽だった。 暫くそのままでいると、小さく話し声が聞こえてきた。 だが、瀬名が居るのはお気に入りの場所の貯水槽の陰。 広い屋上の中では滅多に人は来ない。 無視していると、どんどん話し声が近付いて来る。 それでも無視していると、「いや…こんな所じゃいやだ…」と微かに声が聞こえた。 その声は桜庭によく似ているようで、瀬名は自分は相当重症だな、と可笑しくなった。 「ああっ…やめ…やめて…」 すると喘ぎ声が聞こえてきて、瀬名は不味いと思いだした。 どこかのカップルがここでセックスをする気らしい。 しかし瀬名の居る場所は突き当たりになっていて、そのカップルの前なり後ろなりを通らなければ屋上から出て行けない。 どうしようかと焦っていると、「アアッ…しゅんくん…っ、いやぁっ…!」と甲高い声が聞こえた。 瀬名の身体がビクリと震えた。 それは確かに桜庭の声だった。 しゅんくん… 桐生くんだ… やっぱり莉緒ちゃん? 瀬名はそっと貯水槽の陰から顔を出した。 メイド服を着た子が貯水槽の柵に掴まり、バックから尻を突かれている。 ツインテールが突かれる度、揺れる。 その隙間から見える横顔。 短いスカートは捲り上がって肉棒が抜き差しされているのが、ハッキリ見える。 「ああんっ…しゅ、くん…やめて…やめ…」 「やめてじゃないだろ? こんなにして」 桐生が片手でスカートの前をまさぐる。 「やだ…やだぁ…」 ポタポタとコンクリートに涙が落ちる。 瀬名は足が張り付いたようにそこから動けなかった。 目すら離せない。 桐生が両手で桜庭の細い腰を掴んで、パンパンと音をさせながら激しく抜き差しを繰り返す。 「あっ…ああっ…いい…い…しゅんく…」 「気持ち良い?」 「は、ぁっ…いい…」 瀬名はせめて耳を塞ぎたかった。 だが指一本動かない。 「ああっああんっ…すごい…おっき…い…いい…っ」 「莉緒の中凄いよ。 ぎゅうぎゅう締め付けてくる」 「やだぁ…言わないでぇ…」 その時。 桐生が瀬名の方を向いた。 桐生と瀬名の目が合う。 桐生は桜庭に甘く囁きながらも、鋭い目をして瀬名を見つめている。 『見てろよ』 その目は言っている。 『知ってるんだよ』 その目が語りかけてくる。 「ああっ…!も、だめ…イっちゃう…イく…」 「イけよ。ほら」 桐生がやさしく言う。 瀬名の目を見つめながら。 桐生に深く抉られて桜庭がより一層高く喘いだ。 「やあっ…アアッ…アーッ」 「莉緒…」 桐生も達したのが瀬名にも分かった。 くたくたと倒れ込む桜庭を桐生が支える。 「しゅんくん…しゅんくん…どうして…」 桜庭の涙声。 桐生がゴムを外し後始末をしてやっている。 「莉緒があんまり綺麗でかわいかったから。 久しぶりで我慢出来なくて…ごめんな。 怒った?」 桜庭がゆっくり首を横に振る。 「怒って無いけど…。 もう学校ではしないって約束して?」 「しないよ。今日は特別」 「…うん」 桐生がチュッと桜庭の唇にキスする。 「歩ける?」 「なんとか…」 「じゃあ出口まで抱いてやる」 桐生がひょいっと桜庭を抱き上げる。 桜庭が桐生の首に手を回し身体を預ける。 瀬名に背を向け、桐生が歩き出す。 桐生が一瞬、瀬名に振り返り、また目と目が合う。 そのまま桐生はまた前を向き、桜庭を抱いたままスタスタと歩いて行く。 瀬名はその場に膝から崩れ落ちた。 『見てろよ』 『知ってるんだよ』 桐生の視線が語りかけてきた言葉が、瀬名の頭に渦巻いた。
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