【43】悩み

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【43】悩み

タブレットの効き目が切れたのは、8時少し前だった。 桜庭は指一本動かすのも億劫で、裸のままベッドに横になっていた。 何度達したか分からない。 結局、土日と同じで最後は出るものも無くなり、ドライでイき続けた。 少しの間だが意識も失った。 桐生は普段着に着替えてベッドに散乱した使用済みのゴムを捨て、今は温かいタオルで桜庭自身を丁寧に拭いてくれている。 「莉緒、気持ち悪いところは無いか?」 「……」 「下着、履かせるよ?」 「…自分で出来る」 「無理すんな」 桜庭はムクッと起き上がると、ふらつく身体で何とか着替え出した。 桐生は黙って桜庭を見ている。 全てを身に着けると、桜庭は通学バッグを掴んだ。 桐生が桜庭を後ろから抱きしめる。 「ごめん。 仕方無かったんだ」 「……」 「莉緒は知らないだろうけど、莉緒を狙ってるヤツがいるんだよ。 そいつがしつこくて…。 俺だって出来れば暴力は使いたく無いし。 それに格闘技はそもそも喧嘩するもんじゃないから。 だから一発で諦めさせようとしたんだ」 「…最初からそう言ってくれれば…。 それに俺からそいつに直接断っても良かったし…」 「莉緒をそいつに会わせるなんて危険なことは出来ない。 それに最初から話してたら、不自然な感じになるだろ? 自然に莉緒の本音を聞かせたかったんだ」 「でも…タブレットを使うなんて…」 桜庭の瞳に涙が滲む。 「…俺が質問したこと、覚えてる?」 「少し…」 「そっか」 桐生は桜庭から離れると、桜庭の目の前に立った。 小振りの箱を桜庭に差し出す。 「本当にごめん。 これ、タブレット。 莉緒に渡すから、捨てるなり何なり好きにして」 「駿くん…」 桜庭は俯いていた顔を上げて桐生を見た。 桐生はバツの悪そうな顔をしている。 桜庭は桐生の掌から、タブレットの入った箱をそっと取った。 桐生がホッと息を吐く。 「莉緒…許してくれる?」 桜庭は暫く黙った後、小さく頷いた。 「良かった…!」 桐生が正面からまた桜庭を抱きしめる。 「莉緒、腹減ってない? 何かデリバリーしようよ。 勿論、俺が奢るから。 帰りも姉貴にまた送り頼んであるから!」 嬉しそうに一気に捲し立てる桐生に、桜庭はクスッと笑った。 「本当に反省してる?」 「してる、してる」 「じゃあピザが食べたい」 「よし!メニュー持ってくるから」 桐生がニコニコと笑って部屋から出ていく。 桜庭はその場にドサッと座った。 本当は立っているのもやっとだった。 タブレットの入った箱を通学バッグにしまうと、クッションを背にテレビをつける。 賑やかなバラエティが映った。 桐生がメニューを手に部屋に戻って来る。 「駿くん、早い」 「そりゃあ愛する莉緒の為ですから」 桐生の言葉に桜庭がクスクス笑う。 二人で仲良くメニューを見る。 桜庭が「これがいい!」と言ってメニューを指差す。 桐生は笑って「オッケー」と言うと、家電の子機を手にする。 いつもと変わらない楽しい光景。 だから桜庭は気付かない。 桐生の勉強机の引き出しに、タブレットの銀色のシートが一枚と、その上に『お助けマン』からのメモが乗っていることなど。 翌朝、桜庭はいつも桐生と待ち合わせるホームで桐生と合流すると、通学バッグからタブレットの入った箱を取り出した。 桐生は微笑んで桜庭を見ている。 桜庭は桐生の目の前で、その小振りの箱をホームのゴミ箱に捨てた。 桜庭がニコッと笑う。 桐生も微笑んだまま、軽く頷く。 電車がホームに滑り込んで来る。 桐生が「行こっか」と桜庭の手を繋ぐ。 二人はいつも通り楽しく笑いながら、登校した。 その日も桜庭の靴箱には、『お助けマン』からのメモは無かった。 それから『お助けマン』は、本当に困ってることは無いかと、メモに必ず一言添えるようになった。 『どんな小さなことでもいいです。 困ってることを教えて下さい』 その妙に角ばった文字を見ると、桜庭の胸が暖かくなる。 でも今の桜庭には特に困っていることも無かったので、『大丈夫です。いつも心配ありがとう!』と返すのが常だった。 ただ、桜庭には最近人には言えない悩みがあった。 悩みかどうか微妙なところだったが。 体育祭の練習が始まる前、桐生は立候補して実行委員になった。 これには長い付き合いの綾野と谷川も驚いた。 桐生は桜庭以外はどんなことも格闘技の練習優先で、学校の委員や係すら避けてやろうとしなかったからだ。 「桐生、どうしちゃったんだよ? 格闘技、どーすんの?」 谷川の問いかけに、桐生は平然と「やるよ」と答える。 「でもさあ、体育祭の実行委員なんて超忙しいじゃん。 両立するなんて大変だろ? 何で急にやる気になったんだよ?」 綾野に訊かれて、桐生はニコッと笑った。 「実行委員になれば、クラスの競技の振り分けが出来るだろ? 莉緒を苦手な競技から外してやれる」 「はぁ!?」 綾野と谷川の声が重なる。 「しゅ、駿くん…」 桜庭が真っ赤になって、桐生を見る。 「莉緒、心配すんな。 俺が守ってやるから」 「心配とかじゃねーんだよ! 理由が恥ずかし過ぎて莉緒くんは赤面してんだよ! この天然!」 綾野がすかさずツッコむ。 「そうか? 恋人だったら普通だろ?」 桐生は真っ赤な桜庭をキョトンと見ている。 「やだ、やだ~。 このバカップル…」 谷川が机に突っ伏した。 体育祭の練習が始まると、それまで毎日のようにデートしていた桐生と桜庭の生活は一変した。 週に多くても二、三度しか会えない。 セックスも週に三度はしていたのが、一度や二度になった。 だが、その少ないセックスで、桜庭は自分の身体の変化を感じていた。 桐生は、平日は「莉緒の身体の負担になるから」と言って、桜庭が二回イくともう行為を止めようとする。 桜庭は今まではそれで十分満足していた。 二回と言っても桐生のセックスは激しいし、大抵後ろだけでイかされる。 強烈な快感だった。 だが、まだ欲しい。 抜こうとする桐生を桜庭が止める。 「しゅんくん…も、もっと…」 「え?」 桐生が不思議そうな顔をして桜庭を見下ろす。 「な、何か…まだ中が疼いてる…して…欲しい…」 桜庭が真っ赤になって、小さな声で訴える。 桐生がフッと笑う。 「莉緒、感度良くなったなあ」 「…そうかな…?」 「俺はいいけど、莉緒は大丈夫?」 「大丈夫…!」 「そっか」 桐生が桜庭の後孔から、そっと自身を抜く。 「ああん…しゅんくん…」 「ちょっと待って」 桐生が先に白濁が溜まったゴムを外して、雄をざっとディッシュで拭く。 「莉緒、舐めてくれる?」 「うん」 桜庭は桐生の足の間に跪き、嬉しそうに雄を咥える。 桐生が桜庭の頭をやさしく撫でる。 桜庭の小さな口に入り切らない大きなそれを、必死に舐めては喉奥まで吸ってピストンする。 「莉緒…気持ち良いよ…イきそう…」 桜庭がパッと口を離す。 「いや…駿くん、してくれるんだよね?」 「…莉緒がどうしてもって言うなら」 「して…して、駿くん…!」 桜庭が桐生に抱きつく。 中が疼いて疼いて仕方が無い。 「分かった、分かった。 今、新しいゴム着けるから。 莉緒は四つん這いになって?」 「う、うん…」 桜庭は素早く俯せになる。 桐生はゴムを着けると、桜庭の尻を高く上げる。 「なあ、莉緒から誘ってよ。 うんといやらしく…」 桐生が桜庭の尻たぶに唇を付けると、強く吸う。 チクッとした痛みが走る。 「しゅ、しゅんくん…」 桜庭が涙目で桐生に振り返る。 桐生は微笑んで桜庭を見ながら、自身を扱いている。 桜庭は慌てて言った。 「り、莉緒のいやらしい穴に駿くんの…挿れて下さい…っ…」 「穴、広げて言って? それで俺の何挿れるの?」 桜庭は恥ずかしさより、焦れて涙が零れた。 尻を突き出したまま、両手の指で蕾を左右に広げる。 「莉緒のいやらしい穴に駿くんの…お、おちんちん…挿れて下さい…っ」 待ちに待った肉棒がスブリと奥まで突き刺される。 「アアッ…あーっ」 「いいか?莉緒」 「いいっ…きもち…いい…っ…」 パンパンと肌のぶつかり合う音。 「しゅんくん…しゅ、く…」 桜庭は自ら腰を振った。 そんな日の夜は、桜庭は自室のベッドで一人赤くなった。 桐生は『感度が良くなった』と言うが、たまにに冗談っぽく笑って『莉緒って淫乱だよな』とも言う。 淫乱… そうなんだろうか? 恥ずかしい… いつか分からないけど、前にも『淫乱』って言われた気がする 駿くん…呆れてないかな… でも、身体が疼いて堪らない… 桜庭の頭にタブレットのことが過る。 だけど。 タブレットを使われたら、あんなものじゃ済まない 俺って本当に淫乱なのかも… それが駿くんとセックスするようになって、感度が上がって、表に出てきたのかも… あの駿くんの不思議そうな顔 恥ずかし過ぎるよ… 今度セックスする時は我慢しよう… だが、いざセックスが始まると桜庭の決心は快感に押し流される。 桐生に再度抽挿してもらう為なら、桐生の言うことは何でもきいた。 それが少しずつ普通の生活面にも影を落としていくことに、桜庭は気付かなかった。
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