【45】豹変

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【45】豹変

だが、二度目も同じだった。 桐生がゴムをする間も無く、桜庭はまた桐生の顔から胸を白濁で汚してしまった。 唯一救いだったのは、桐生もほぼ同時に達したことだ。 桐生が冷たく「どいて」と言う。 桜庭は慌てて桐生の上から降りた。 直ぐにティッシュを数枚掴む。 「そんなんじゃ無くてさ」 桐生の切れ長の大きな瞳が桜庭を射る。 「莉緒が自分で舐めてよ」 「自分で…?」 「我慢出来なかったお仕置き!」 桐生の声は明るいが、桜庭を引き寄せる手には力が入っていた。 「ほら、早く」 桐生が桜庭の頭を掴む。 桜庭はそっと舌を出して、桐生の唇の下に飛んだ白濁を舐めた。 瞳に涙が浮かぶ。 そのまま舐め進めていると、桐生が独り言のように言った。 「俺達って、セックスに興味津々の年頃って言ってもさ」 桐生がやさしく桜庭の艷やかな髪を撫でる。 「感度が良いって言っても、淫乱までいっちゃうと流石に引くよな」 桜庭の後孔に桐生の指が一本差し込まれる。 「…っ…」 桜庭は喘ぎそうになるのを必死で堪え、桐生の身体から舌で白濁を掬う。 「でも、俺はさ」 蕾の中の桐生の指が前立腺に触れる。 桜庭の尻が揺れる。 「莉緒を愛してるから、淫乱とか気にしないから」 桐生が前立腺をゴリッと抉るように擦った。 「あっ…ああ…」 桜庭が思わず桐生の身体にしがみつき、尻を高く上げる。 桐生がクスッと笑う。 「嘘だろ? 指一本で、自分の精液舐めて、そんなに感じてんの?」 桜庭の瞳から涙が零れる。 桜庭の中の桐生の指が、催促するようにぐにぐにと動く。 桜庭は尻を震わせながら、また舐め始める。 『お助けマンさんへ』 「だけど淫乱の莉緒でも、俺は引いたりしない。 受け止めるよ。 莉緒は莉緒だから。 俺のかわいい莉緒…」 ペロペロと白濁を舐める桜庭を愛おしそうに、桐生は見つめる。 『お助けマンさんへ。 湿布とサポーター、ありがとうございました!』 桜庭は涙を零しながらも、蕾の中を動くたった一本の指に感じてしまう自分が、本当に淫乱なんだと思った。 そして、それを受け入れて、愛してるって言ってくれるのは… 「ん…ぁう…ああ…」 『谷川くんも喜んでいました!』 「…莉緒、欲しい?」 桐生が髪を撫でていた手を桜庭の雄に伸ばす。 「はっ…あぁ…や、舐められな…」 「もういいよ。 なあ、欲しい?」 桐生に中と前を弄れて、桜庭の身体がピクピクと跳ねる。 駿くんしかいない… 「ほ、欲しい…」 やっぱり俺には駿くんしかいないんだ… 『俺は困っていることはありません。』 「仕方無いな…。 じゃあ、今度こそゴム着けよっか、最初から」 「う、うん…」 桐生がまたクスクス笑う。 「莉緒はもう十分大きくなっちゃってるから、ゴム着けてやるよ。 俺の大きくしてくれる?」 桐生が素早く桜庭の雄にゴムを被す。 「尻、こっち向けたままね」 桜庭は桐生に尻を向け、桐生自身を咥えた。 なぜだか涙が止まらなかった。 桐生がジェルを足した指を三本一度に蕾に突き刺す。 「あっ、アアッー」 「莉緒、まだ?」 「ご、ごめ…」 「また一人でそんなに感じて…。 どんだけ淫乱なんだよ。 俺はもういいかなあ…」 「やだ…すぐ…すぐ…」 桜庭は必死に桐生の雄を舐めては吸う。 『お助けマンさんへ。 湿布とサポーター、ありがとうございました! 谷川くんも喜んでいました! 俺は困っていることはありません。 いつも心配ありがとう』 瀬名はメモを見て微笑むと、自室のベッドにごろんと転がった。 それから二日して、グループラインで神田が5人で中間テストに向けて勉強会をしようと言い出した。 大島は美術専門予備校に重点を置いているから赤点さえ取らなければ良いというスタンスで、あまり乗り気では無い。 水元はいいよ、と言ってきた。 そして瀬名も。 桜庭はその場では返事をせず、翌日、桐生に勉強会のことを話した。 桐生は笑って「いいんじゃない?」と言った。 来週は試験一週間前ということで午前中授業になる。 桜庭は『来週の午後、勉強会しようよ』と、大島達のグループラインにトークした。 神田が『そうだね~!みんなで集まるの久しぶりだし、夕飯も食おうよ!』と言い出し、『神田ちゃんちの中華食べさせてあげるから!』ということで、神田の家で来週の火曜日に勉強会をすることに決まった。 その日は金曜日で、桐生は水・木と格闘技の練習があったし、桜庭は木曜日に英会話のレッスンがあった。 金曜日はお互いフリーだったので、桜庭は当然デートするものだと思っていた。 予定のあった水・木でさえ、お茶くらいしていたから。 だが桐生は「今日は無理なんだ」とアッサリ言った。 「何か急用?」 桜庭の問いに、桐生は「別に」と答える。 桜庭は家で何かあるのかな、くらいにしか思わなかった。 「じゃあ、土日どうする?」 桐生は土日のどちらかに格闘技の練習がある時もあるが、大抵、午前か午後のどちらかで、それに合わせて土日のどちらかは必ずデートしていた。 だがそれも、桐生は「土日も無理なんだ。ごめん」と言うだけ。 桜庭はガッカリを通り越して不安になった。 桐生と付き合い出して、学校の行事以外で会わないことなど殆ど無かったからだ。 「駿くん…何かあった?」 「何も無いよ。 単に予定が会わないだけ」 桐生は笑って言う。 けれどいつもの桐生なら、その『予定』を桜庭に話してくれる。 しかし今回は、桐生は話す気は無いようだった。 その日の帰りも「今日は一緒に帰れないんだ。ごめんな。気を付けて帰れよ」と桜庭に言うと、さっさと一人で帰ってしまった。 桜庭は呆然として、教室を出て行く桐生を見送った。 綾野も谷川も「珍しー!」と驚いている。 綾野と谷川に「じゃあ、今日は三人で遊ばない?」と誘われたが、桜庭は断った。 土曜日と日曜日、桜庭は寂しかった。 土曜日、桐生が格闘技の練習をしているかも分からなかったが、桐生の声が聞きたくて、今までの経験で桐生の練習が終わる頃を見計らってラインで『電話出来る?』と訊いたが、『ごめん。今、外』とトークが一言。 それだけ。 桜庭はまた格闘技仲間との食事かな、と思った。 それなら、寝る前にでも電話してくれるかも… 桜庭の淡い期待は見事に打ち砕かれた。 その夜も電話もラインすら無かった。 翌日も、桐生からは何の連絡も無い。 桜庭は何となく、もう自分からは連絡しづらい気分になっていた。 勉強をしたら、外に出ようかなと思ったが、止めた。 ピアノの前に座る。 『ロミオとジュリエット』を弾いてみる。 まだ満足とは言えないが、上手く弾けたと思った。 また弾く。 また弾いてみる。 涙がポトリと鍵盤に落ちた。 悲しい… 悲しい曲 桜庭は後夜祭の瀬名のギターの音色を思い出した。 ハルは、どうして、どんな思いで、この曲を弾いたんだろう… あんなお祭り騒ぎの中で ハル… すっかり忘れたと思っているのに、 ハルは俺を忘れているというのに、 ハルは俺の中から完全に消えてはくれないね 人差し指で鍵盤に指を置く。 ポーンと鳴ったピアノの音に、また桜庭の瞳から涙が零れて落ちた。 俺のことを全て受け止めて愛しくれる人は駿くんしかいない ハルは俺を友達とすら、思って無い 分かってる 分かってる それでもハルは俺の心にふと現れる そして蜃気楼みたいに消える いつか、ハルが俺の心から完全に消えた時、俺は本当に駿くんだけのものになる その方が、幸せだ 駿くんといて、楽しくて、幸せで、愛されて 俺も駿くんが大好きで 分かり切ってることなのに… 桜庭は先日買ったギターバージョンの『ロミオとジュリエット』のCDをかけた。 当然プロの演奏で瀬名とは全然レベルも弾き方も違う。 それでも後夜祭のステージに、ギターを一本掴んで登って行く瀬名の姿が頭に浮かんだ。 背中で聴いた瀬名の演奏。 ハル… 駿くんに会えないからってハルを思い出すのは間違ってる 桜庭は理性ではそう思う。 でも、知りたいと思った。 あれ以来、目を逸らしていたこと。 瀬名がなぜ『ロミオとジュリエット』を弾いたのか。 桜庭はそれから、幾度となく、ギターバージョンのCDを聴きながら、自分でも『ロミオとジュリエット』をピアノで弾いた。 その日も桐生から連絡は無かった。
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