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「こうちゃん、昨日は何を食べたの? 」
資料の束を、整理しながら、碧は聞いた。
「簡単に、野菜炒めをつくったよ」
航平は、手元の資料を、トントンとそろえた。
「でもね…… あまりおいしくなかったよ。
私は、すっかり、碧君と二人で食べる食事に慣れてしまって……
いけないなぁ」
「いけなくないよ、俺も、こうちゃんの事ばっかり考えていた、友達にもね、言っちゃった」
航平の手が止まって、碧を振り返った。
「何を? 」
「『好きな人』が居る事。
『好きな人』が年上の男の人で、今は……
口説き中だって事を話した」
碧は、資料から目を話さずに、そう言った。
「そっ、それっ、碧君! 」
「『応援する』って、言ってくれた」
碧は、ゆっくり航平と目を合わすと、ニッと笑った。
「俺、この静波大学に入って、良かった。
嬉しい事ばっかりだ」
碧は、思い出しているのか、宙を見つめて呟く。
「こうちゃんのおかげ」
「私は、何もしていないよ」
航平は、手元に視線を戻して、資料のまとめ作業を再開した。
ハッと気が付いて、航平が聞いた
「…… 碧君、その友達も、ウチの学生だよね」
「うん、皆には、詳しくは話していない…… 」
そこまで話して、碧は、大学間交流で、来ている深谷颯人を思い出した。
颯人は、航平に学会で声を掛けてもらって以来、航平を崇拝している。
崇拝しているだけならまだいいが、隙あらば、航平にちょっかいを出そうとしてくる、油断ならないやつだ。
「深谷さんは、昨日は、学校に居なかったみたいだけど、帰ったの? 」
「あぁ、そうなんだ、休み明けにまたこっちに来るヨ、会いたかったの? 」
「いや、会いたくない、来なくていい」
碧は、思い出して、いらいらした。
振り払うように、入力作業に取り掛かる。
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