初恋の憧れと、焦燥の理由

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 どのくらい時間がたっただろう、裸で抱き合っていた二人だが。 碧が泣き止んだころには、お互いが触れ合っていたところに、うっすらと汗をかいていた。 航平が『お風呂に入ろう』というので、二人で、湯につかることにした。  脱いだ服を拾って、それを手早く身に着ける。 碧は、パンツだけしかはかないので、航平を赤面させた。 「きちんと服を着なさい」 「さっきまで、何も着てなかったのに? 」 耳まで赤くして恥ずかしがる航平が、可愛くて、碧は結局、そのままで、風呂場まで航平の手を引いた。 脱衣所で、航平の浴衣をはぎ取ると、自分もポーンとパンツを脱いで、まとめて洗濯機に放り込んだ。  湯がはられている、湯船に入る。 二人で向かい合って入るには、少々狭い。 それでも何とか、足を重ね合わせて湯につかった。  ずいぶん泣いたので、碧の瞼が腫れていた。 航平は、手に着いた雫を払って、碧の瞼をそっと拭った。 そのまま頬に手をあてる、ほっぺたをつまむ。 「子供の頃は、もっとぷにぷにしていたのに……  大人っぽくなっちゃったね」 「……うん」 「あの頃の碧君は、私の憧れだった」 「へ? 」 「私は、運動が苦手で、走ると何故か、自分で、自分の足に絡まってしまう。 でも、碧君は、自分の身体を使うのが上手くて、走るのも早いし、木に登るのも、川を飛び越えるのも上手。 私は、碧君に成りたかった」 「……それって『好き』ってことでいい? 」 「『好き』より『憧れ』だよ」 「そう? 俺も憧れてた、大人で、賢くて、俺を名前で呼んでくれた…… 母さんのオマケじゃなくて、俺を見てくれた…… 母さんが、そっと布団を抜け出して、こうちゃんの部屋に行く日は、嫌で……モヤモヤして、泣きたくて、怒りたかった。 誰にも、こうちゃんをとられたくなかった。 でも、子供だったから、その感情の名前が分からなかった。 少し大きくなって、ようやくわかった。 これが『恋』なんだって」 碧の頬を触っていた、航平の手が、緊張したのが分かった。 碧は、その手にすり寄る。 「こうちゃんの『憧れ』も『恋』でいいでしょ? 」 碧は、子供の頃と同じ顔で、航平を見上げた。  その顔を見ながら、航平は思い出していた。 その顔をした碧に、一度も勝てたことがないことを……。 きっと、このまま、流されて、何もかも明け渡して、どっぷりと、浸かってしまうだろう…… と思いながら、何故か、少し、楽しみだなと思った。
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