ハレの日のお菓子を、一緒に食べた日

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ハレの日のお菓子を、一緒に食べた日

 私、水無航平は、本当にダメな人間だと思う。 十八才も年下の、可愛い男の子 弓削碧に、毎日翻弄されている。  毎朝、元気にやってきて、『おはようございます』と『お邪魔します』の挨拶をして。 朝の弱い私の、世話を焼いて、ご飯を食べて、仕事の資料のまとめを手伝ってくれて。 『好きだ』とささやかれて、抱きしめられて、キスをする。 若い彼にとって、私は、つまらないおじさんだ、大人として、けじめは付けておかなくてはいけない。  ゴールデンウィークが終わって、航平は学会の為に、横舘町に来ていた。  横舘町には、碧君の母 紅子が、雇われマスターをしている、バーがある。  航平は、学会での発表を終えて。 打ち上げや、懇親会などをすべて断って、紅子のバーにやってきた。  重たい扉を開けると、カウンターの中で、紅子が、綺麗にお辞儀をした。 「いらっしゃいませ」 「…… 久しぶりですね、紅子さん」 バーを訪れるには、早い時間だったので、航平の他に、客は居なかった。  店内には、静かにジャズが流れていて、優しいオレンジの明かりが、店内を照らしていた。 紅子は、昔と少しも変わらない、笑みを湛えていた。 「こちらへどうぞ」 紅子にすすめられて、カウンター席に座る。 「本当、ずいぶんご無沙汰しちゃったわ。 碧がいつも、お世話になっております」 紅子は、また優雅に頭を下げた。  紅子と、航平は、碧が小さい頃に、同居していた時期があった。 紅子が。当時付き合っていた彼氏に、お金を持ち逃げされて。 借りていたアパートの家賃も払えなくなり。 碧と二人、路頭に彷徨いそうなとき。 紅子が管を巻いて、酔っ払っていた居酒屋で、偶然に出会った。  紅子の話しぶりから、紅子が息子 碧を大切にしていることはすぐに分かった。 何度も男に騙される、ダメな自分と、碧が一緒に居て、教育上宜しいものかと、泣きながら話していた。 「あおはぁ、とってもいい子なの。 走るのも早いし、勉強も……まぁ、出来る方ヨ 友達も多いし、近所のおばちゃんたちにも、優しい。 私の、自慢の息子なのよ。 だからさぁ、だけどさぁ…… 私、こんなだしぃ」  航平は、隣で、酔っ払っている紅子に 思わず声を掛けてしまった 「それで、今、その子は、何処に居るの? 一人で留守番? 」 「今はぁ、私の親友の家に、遊びに行っているわ、幼稚園の先生をしているの……  アイツの方が、お金もあるし、生活もきちんとしているのよ。 私とは大違い。 何より、碧が好きだっていうのよ。 アイツが、居れば、ママが仕事していて、家に居なくても、『さみしくない』って! アイツの方がいいのかなぁ…… 」 「それは…… お母さんに負担かけないように、言っているだけだろう」 「そんな事、なんで、貴方にわかるのよ」 力の入らない右手を、フルフルと振って、紅子は、航平を指さした。 「……わかるよ、私も、昔、子供だったからね、頑張っているお母さんに、我儘なんて言えないよ」 「お兄さん、面白いこと言うのね。 私だって、昔は子供ヨ ……でも、そうだった、子供なりに、気を使っているのよね あぁ…… あお―」 そう言って、紅子は机に突っ伏して、大声で泣き出した。 「じゃぁさ、私の家においで。 祖父母の残してくれた一軒家で、使っていない部屋なら沢山ある。 私も、今日、職場に、退職届を叩きつけてきたところだから、お金はないけど、雨風はしのげるよ。 私は、家事をこなす才能が全くないから、食事を作ってくれたら、ありがたい」 「お兄さん、人がいいのね、悪い女に騙されるわよ。 でも、お兄さんは、全然タイプじゃないの、ごめんなさいね」  航平も、したたかに酔っていたので、普段言いにくい事も、素直に話してしまった。 「アハハ! その心配はいらないよ…… 実は私は…… 」 そっと、距離を近づけて、自分がEDで、その手の欲望も、本能も枯れていることを告白した。 その理由はきっと、自分の、子供時代が、あまり幸せでは無かった事に、由来しているだろう事も告白した。 男女の関係は求めたりしない。 ただ、その子供が、安心できる場所に成りたいと話した。  何故か、紅子が酷く同情して、号泣し。 航平の背中を、バンバン叩いて、明日引っ越すと宣言した。 翌日、噂の碧君を連れて、紅子は、本当に航平の家にやってきた。  
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