眠る場所は大切ですよ、よくよく考えましょう

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眠る場所は大切ですよ、よくよく考えましょう

昨日から降り続いた雨は、止む気配すらない。 水無航平は、恋人を見送った玄関で、どんよりとした、灰色の雲を見上げた。  航平は、祖父母の残した一軒家に住んでいる。 つい先日まで一人暮らしだったその家に、今は、恋人を住まわせている。 恋人は、現在十八才、静波大学に通う一年生、弓削碧。  同じ大学の、准教授である航平と、学生の碧。 同じ家に住んで、行く場所も、帰る場所も一緒。  だが、碧は、学校では、増々よそよそしく、航平を避けるようになった。 きっと、航平の、社会的立場を気にしてくれているのだろう。 十八才は成人だが、まだまだ幼い。 大人ぶったおじさんの、つまらない嫉妬など、想像もしないのだろう。  今朝も、恋人が可愛い笑顔で起こしてくれた。 「もうすぐ朝ごはん出来るから、顔を洗ってきてね」 といって、部屋を出て行った碧の、後ろ姿を見送りながら、ぼんやり考えた。    あの、可愛い笑顔は、碧の標準装備だ、航平だけに送られるものではない。 碧の行く先々で、披露される。 碧の、香り立つ若葉の様な美しさを、世間も知っている、下宿先に居た、あの美奈とうい少女がいい例だ……。 航平は、自分の懐の狭さに、頭を抱えて、叫びたくなる。   「こうちゃん! もう、起きてよ」 なかなか起きてこない碧が、しびれを切らせて、もう一度、航平の様子を覗きに来た。 部屋の戸口に立った、その瑞々しい姿を、眩しく思った。 それでも、もぞもぞと布団を被っている航平に、碧はやれやれと言った様子で、布団のわきに膝をついた。 「こうちゃん、起きて」 そう言って碧は、そこだけ布団から出ている、航平の額に、チュっと甘いキスを落とした。 優しい口づけに、よしよしと頭を撫でられて、余計に布団から出られなくなった。 「今起きないなら、もっと色々触るけどイイ? 」 航平は、色々触られるのは、かまわないと思うが、理性でそのふしだらな思い付きをねじ伏せて、布団を跳ねのけて、起き上がった。 碧は、くすくす笑って、もう一度、頬にチュッとキスをすると、航平の手を引き上げた。 碧は航平を引き上げると、少し開けた浴衣の襟を、掻き合わせた。 「ご飯よそっておくから、起きてね」 碧はそう言って、台所へ入っていった。 航平は、軽く頭を振って、気合を入れて起き上がった。
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