恋した涙

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「優歩」 「はい」  香月の部屋で正座をする。大事な話があると言われ、つき合って一か月にしてふられるのかと心臓が嫌な動きをする。なにが原因だろうと考えてもまったくわからない。とてもいい関係を築けていると優歩は思っていたのに。 「……俺、なにかしちゃった? 別れないといけないの?」  泣いてしまいそうで、でも涙を堪えて言うと香月がきょとんとする。 「別れるなんて誰が言った?」 「だって大事な話って……」  恋人同士の大事な話といったらそれしか思いつかない。 「大事な話は、優歩を抱きたいって話なんだけど」 「えっ」 「だめ?」 「えっ……えっ」 「だめ?」  そういう悲しげな表情は卑怯だと言いたいのに言えない。だってどんな表情をしていても恰好いいし大好きだから。 「だめ?」  三度目の問いに少し俯く。嫌ではないけれど、がっかりされたらどうしようと不安になる優歩を香月がじっと見ている。 「嫌ならそう言って。まだ『待て』が効く」 「……嫌じゃない、けど、わっ」  いきなり押し倒されて慌てる。 「待って。人の話は最後まで聞いて!」 「もう待てない」 「今なら『待て』が効くって言ったじゃない」 「もう効かない」  唇が重なり、深い口づけにとろんとしてしまう。香月の背に腕をまわしてぎゅっとしがみつく。 「優歩……」  心底愛おしそうに名前を呼ばれ、胸がきゅっと甘く締めつけられた。制服を乱されて慌ててストップをかける。 「もう待てないって言った」 「そうじゃなくて……ベッドで」  はっとしたような香月が頬を染めて身体を離す。少しほっとしたら額を指で押された。 「ほっとした顔するなよ」 「だって……するならベッドがいいし」 「それはそうだよな。悪い」  ひょいと抱き上げられてベッドに寝かされる。香月を見あげる体勢になり、どきどきと心臓が暴れる。もう一回唇が重なり、舌が絡まるキスが気持ちよくて夢中になってしまう。乱れたシャツの隙間から大きな手が滑り込み、肌を撫でていく。 「んあっ」  指先が胸の突起をかすめて変な声が出てしまう。慌てて手で口を押さえるけれど、香月の瞳には情欲が灯っていた。噛みつくようにキスをされ、吐息の熱さにくらくらする。舌先を軽く吸われてぞくりと快感が奥から湧きあがった。自分の身体が知らないもののように、香月から与えられる刺激に敏感に反応する。 「恥ずかしいよ、香月……」 「可愛いから大丈夫」 「全然大丈夫じゃない……あっ」  両胸の突起を指できゅっとつままれてまた変な声が出た。口を押さえて首を振るけれど香月は無視して片方の突起を口に含み、反対側を指でこねる。じんじんと熱が燻るようなもどかしい感覚に身体をよじっても些細な抵抗など気にしないというように執拗に突起をねぶられる。 「あ……や、だめ……」 「だめ?」 「なんか、……変だから」  胸から顔をあげた香月が優歩の顔を覗き込む。あまり顔を見ないで欲しくて手で隠すけれど簡単にはずされてしまった。まっすぐな瞳が優歩を見ている。 「気持ちよくない?」 「……」 「……気持ち悪い?」 「……ううん」  首を振って否定する。気持ち悪くない。気持ちいいけれど、自分が恥ずかしいのだ。こんなに恥ずかしい声を出す自分は知らないし、腰が重くなっていくような快感も知らない。じわじわと快感に侵食されていくようで、そのすべてがはしたなく感じる。 「やめたほうがいい?」  香月の下腹部が押し当てられ、そこがすでに硬くなっていることがわかる。 「……やめないで」  優歩自身、身体が熱くなっていてここで終わられたら苦しい。昂ぶったものは下着を押しあげて存在を示している。そこに香月のものが擦りつけられると下着越しでも気持ちいい。 「じゃあやめない」 「んっ……」  芯をもって尖った胸の飾りにまた吸いつかれ腰が震えた。もどかしかった快感がたしかな刺激となって肌を火照らせる。尖りを舌で転がしながら手が下腹部に移動して下着を取り去る。すでに濡れた先端を手のひらで包み込まれると、身体が与えられる快感に従順に反応した。  ぬるりと手が上下に滑るたびに眼前が明滅する。声にならない声をあげてあっという間に達してしまった。 「はっ……あ、ぁ……」 「気持ちよかった?」  こくんと素直に頷くと嬉しそうに微笑む香月はいつもと同じ香月なのに違う。 「俺もする……」  香月の昂ぶりに手を伸ばしたらよけられた。 「それより続きしていい?」 「……うん」  香月の濡れた手が奥まったところに触れる。思ったより簡単に指が入り込み、驚いてしまう。円を描くように指が動き、窄まりをほぐされていく。そんなところに本当に入るのだろうか、と心配になってしまうけれど、香月が指を増やしたのでほぐれてきてはいるようだ。指が奥に進み、内壁を撫でる。中を探るように動いていた指先がなにかに触れた。ぞくりとして思わず香月の名を呼ぶ。 「痛い?」 「ちが……なんか変な感じがする」 「そう……」  変な感じがすると言っているのに同じところを繰り返し撫でられる。ぞくぞくする感覚は気持ちいいとは違うけれど不快ではない。知らない感覚は徐々に大きくなっていく。 「あ、あ……なんか、変、変だから……」 「うん」 「待って……あっ」  もどかしい感覚は言いようのない快感へと姿を変え、全身が大きく跳ねた。びくびくと震えながらシーツを乱す姿を香月が見ている。恥ずかしいのに腰は揺れて昂ぶりは滴を零す。香月の指がそこを撫でるたびに痺れるような鋭い快感に貫かれる。 「……ごめん、優歩。もう我慢できない」 「あっ……」  指が抜かれ、綻んだ後孔に昂ぶりが押し当てられた。どこか性急に入ってきた熱の塊を受け止める。 「優歩、大丈夫?」 「うん、大丈夫……だけど」 「だけど?」 「手、握ってて」  手を差し出すと香月は目を見開き、微笑んでからその手を握ってくれた。それだけでほっとして自分から口づけると、香月は頬を染めてキスを返してくれる。 「優歩、可愛い」 「あんまり見ないで……」  香月はいつもまっすぐ優歩を見つめる。普段から恥ずかしいのに、こういうときだともっと恥ずかしくなってしまう。 「真っ赤」 「香月のせい」 「そうだね」  ゆっくりと香月が動き始める。香月とひとつになっている実感が不思議で、夢ではないかと思ってしまう。でも優歩を呑み込もうと押し寄せる快感はたしかに現実だ。 「どうしたの、優歩」 「え……?」 「泣きそうな顔してる」  頬を舐められ、目を閉じると唇が重なった。あまりに幸せで本当に泣きたくなってくる。香月が握ってくれている手に力をこめて微笑んで見せる。 「幸せだから」 「優歩……」  香月の瞳が潤み、映る優歩が揺れている。なんて綺麗な表情なのだろうと見入ってしまう。 「優歩、ありがとう」 「なにが?」 「俺を受け入れてくれたこと。俺のほうが何万倍も幸せだよ」  再び律動を刻み始めた香月によって快感の鉱脈が探り当てられ、背が仰け反る。 「あっ、あ……だめ、そこだめ……っ」 「ここ?」 「っ……あ、あう、あ……」  香月の手をきつく握りしめ、迸る欲情に駆られて腰を揺らす。昂ぶりが今にも弾けそうでぞくぞくと背筋に快感が滑りあがる。 「もういきそう……香月……っ」 「うん。俺も」  速まる動きに目の前が点滅する。快感を生むところを穿たれ、喉を露わにして白濁を放った。小さな呻きとともに香月が身を震わせて昂ぶりが脈打つ。どうしようもなく満たされすぎて茫然としてしまう。どちらからでもなく唇を重ね、喘ぐように吐息を漏らした。
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