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ジンも先程迄の愉快な話の余韻を残すかの表情で、盞の酒を一口飲みながら打つ相槌。
「私は、親以上に長い時を汝とこうして生きてきた………そして、此れが何にも変えがたい、一番楽しく、幸せな時だったろう」
妙に感慨深く、染々と語るインだが。
「あのな、夫婦ではないのだぞ」
少し眉を潜め、苦笑いを浮かべたジンにインも笑う。確かにそうだと。
「夫婦には、成らぬな……」
「当然だ」
ジンは呆れた様にそう言って、もう一杯と酒を盞へと注ぐ。続き、口を開いた。
「だが、半身だ」
盞の酒を眺めながら、静かに出たジンの言葉。其の言葉一つだけで、全てが伝わる。ジンの思い、己等の絆を。インは、込み上げる思いへ、身が震えそうになるのを必死で堪えて。
「ああ。我等は、ふたつでひとつだ……ずっと」
静かに、どこか寂しげに声を返した。其れは俯く様に、己の盞へ視線を移しながら。ジンは、そんなインの姿に何故か儚さを覚える。不思議な感覚、胸の奥の方で警鐘が響く様な妙な。不安に似た思いが過るのは、何であろうかと。飲み過ぎか。ジンは、誤魔化す様な溜め息をひとつ。
「我等は白龍様の手であり、足であり、声である……つとめを終える、其の刻迄」
ジンの答えに、インは俯いたまま暫く盞を眺めていた。徐に、其の中の酒を口へ運ぶ。其の一口を、よく味わった後で。
「そうだな……さて、酒も尽きた」
インは、そう言いながらゆっくり立ち上がると、ほんのり赤く染まった顔をジンへ向けて笑う。
「ジン、今宵は良い酒だった」
ジンも、インの其の表情と言葉へ先程の不安を心の奥へやってしまった。
「何よりだ。此方も馳走になった……さて。今宵は新月、白龍様が眠りにつかれる。寝ずの番だな」
そして、酒が与えてくれた心地好さも手伝ってか笑顔を見せる。が。
「処でジン、一つ頼みがあるのだ」
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