最後の前に。

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 何と、恐れ多い願いを口にしたイン。あまりの驚愕にジンは一瞬、己の全てが凍りつく様な感覚に囚われた程。だが、無理矢理に我に返って。 「よせ!魂を戻す等許されぬ!南斗星君様に背く事となるのだぞ!」  懸命に訴える様に叫ぶジンへ向けられるは、インの初めて見る強い眼差し。 「覚悟の上だ!」  其の強い意思に、ジンは声を失ってしまう。  龍の使いとして龍を護衛する任も担う神使達は、天より免除される幾つかの罪がある。其の中の一つが殺生だ。定められた命の時に逆らい、天へ魂を戻す権限。此れは、死を司る神、北斗星君より賜った特権である。しかし、逆に一度天へ還ってしまった魂を戻す事は許されておらず、重罪であった。其れは、死を司る北斗星君と対を成す、生を司る神である南斗星君に背く事。即ち其れは、天に背く事に他ならない。神使達の主となる龍ですら、一度天へと還った魂を戻す事は安易に許されないのだ。其れを全て、覚悟の上だ等と。  インは、今一度ジンの姿を銀色に輝く瞳に映す。其の瞳には、先程迄の強さが消えて。 「ジン、済まぬ……約束は、守れぬ」  インの頬を一筋の涙が伝うた。そして、意を決しし、鱗へ意思を乗せる。すると鱗より、再び強い光が放たれた。鱗はインの意思を受け継いだかの様に、ヂュイエンの遺体の側へと。鱗より放たれる眩い光は、其れを照らすかの様に輝く。同時に、とてつもない力の圧も。ジンは、其の力に弾かれそうになるも、必死に耐えて。 「よせ!イン……!」  ジンは必死の思いでインの体へ近づくと、背後より其の腕を握りしめ、鱗へ意思を乗せるインを制しようと。握り締めたインの腕からは、既に力が衰弱していくのが伝わる。インは己の持つもの全てと引き換え様と。 「は、離せっ、ジン!」  抗う力も、最早弱々しく感じて。 「成らぬ!此れだけは……!」
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