最後の前に。

9/13
前へ
/45ページ
次へ
 インは己の後ろから腕を伸ばすジンを、苛立ちと共に勢い付けて振り返った。 「ヂュイエンは私のせいで殺されたのだ!腹の子共々!なのに……どうして生きていける?!長い、長い悠久の時を……こんな、心で……白龍様のお側に等おれぬ!」  心砕く様な、インの悲痛な叫び。インの頬が、涙を伝う。溢れた其れは、最早止まらぬ程に。ジンは、其れでも制する腕の力を緩めない。 「ジン、頼む。やらせてくれ……汝の側にも居れぬのだ……もう、私に、其の資格は無い……辛いんだ……苦しいんだ……!」  鱗にかなりの精気を吸われ、最早崩れそうなインの体を、ジンが抱き竦めた。驚くインの耳へ届いたのは。 「甘えるな」  怒りが入り交じったような、ジンの低い声であった。だが、其処には深い苦しみと哀しみも、同じ程感じられて。 「汝の心、分からぬと思うか。半身である、此の私も同じ……だが、其れでも生きろ。悠久の時を、其の傷を抱き、白龍様のお側で……共に居てやる。私も、最期迄付き合ってやる!必ずだ!」  ジンの強い誓いを込めた声に、インは呆然と立ち尽くしたまま。 「ジ、ン……」  呟いたイン。意識を失うたか、白龍の鱗が、ゆっくりと地へ横たわるジュイエンの遺体の胸に落ちる。次の瞬間、インはジンへ体を預ける様に意識を失ってしまった。 「イン……!」  事は阻止出来た様だが、呼ぶ声にも最早インに反応が無い。其れも其の筈で、インからは殆ど精気が感じられないのだ。龍の鱗を扱う為に消耗した気は、当然ながら大きかった様だ。此のままでは、インの命はもたないだろう事は明白。  全てを悟り、冷静さを取り戻したジン。インを抱き起こし、伝う涙を拭う様に、其の頬を撫でてやった。切なげに見詰める金色の瞳に映るは、幾度となく見てきた、良く知った筈のインの顔。精気を失いながらも其の顔は、ジンも初めて見る様な気がする程に美しいと。  呆れる様な溜め息が、ジンから漏れて。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加