最後の前に。

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「まだ若いじゃねぇか……随分上等ななりだが、どこぞかの貴人ですかい?しかし、何だってこんな夜の山に……お連れさんの方は怪我でも……?」  先頭に居た、みすぼらしい身なりの男が不思議そうに。すると後ろから、何気に覗き込んだ一人の中年の男。其の男は、ジンが抱えるインの顔を瞳へ映し、青ざめて震え出した。 「ちっ、近付くなっ……!よく見ろ!其奴が抱えてやがる若造……ヂュイエンに取り憑いていた、蛇の化け物だ……!」  其の叫ぶ様な声に、場の空気が一気に凍り付く。ジンは、其の一瞬の隙に再び気を奮い起たせ、海へと駆け出す。 「ま、待ちやがれ!」  暫く恐怖心に煽られ、身を凍りつかせた男達だが、手に持っていた武器らしきものを握り締め、ジンの後を追おうと。  やはり、苦しい。足の速さは落ちるばかり。徐々に、男達の罵声が近付くのが分かる。其れでもジンは、只必死に海を目指すが、最早全てに限界がこようとしていた。しかし、倒れるわけにはいかない。もうすぐだと、己を震い立たせる。波の音と潮の薫りが近くに感じるのだ。  だが、次の瞬間。 「ぐっ……!」  ジンが、呻き声を上げる。突如背後から、左腕を矢が掠めたのだ。腕から伝わる痛みに、ジンは足を取られ、倒れそうになるが此れも堪え、必死に又足を運ぶ。必死に。 「待て!化け物!」  口々に叫ぶ男達の罵声も、ジンの耳には段々と霞んで行く。男の一人が再び弓を構え、放とうと。 「っ、に、じゃ……兄者ぁぁ……!」  ジンの叫びは、最早無意識であったかもしれない。  だが。次の瞬間、一陣の冷たい風と共に、前のめりに倒れ込むジンの体を抱き止める青年の姿が。放たれた矢だが、ジンとインを庇う様に現れた其の青年の前で静止すると、粉々に砕け散ってしまった。 「ひぃぃ?!矢がぁ……!」  信じ難い面妖な光景に、一人が怯え声を上げた程。そんな人等の声も動きも聞こえぬかの如く、現れた青年はジンの身を優しく抱き起こしてやる。
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