最後の前に。

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「愚劣な魂が……最早、生きていても仕方あるまい。其の器ごと、消えるが良い……!」  怒号の後。男達が目にしたのは、九十、いや、百丈はあろうかという、赤黒い大蛇へと身を変えたリンの姿であった。 「う、うわぁぁ!」  余りの恐怖に逃げようと踵を返す男達。だが、其の足は凍り付き、自由を奪われてしまったのだ。リンが、威嚇する様に赤い瞳をぎらつかせる。 「ひぃぃ!たっ、助けてくれぇ……!」  一人が命乞いをするも、怒り狂ったリンは其の男を頭から飲み込んだ。 「わぁぁ!」  成す統べなく、恐怖に震える断末魔。一人、二人と男等の身はリンの腹へと入って行く。  そして、最後の一人――ジンに傷を追わせた男――へ、リンが其の口を大きく開け近付いた瞬間、男は隠し持っていた最後の矢を力一杯リンの体へ突き刺したのだ。呻く様なリンの声と同時に、男を捉えていた氷が弾けるように割れる。男は其の一瞬の隙を逃さず、一目散に逃げ出してしまった。リンは人の形へ戻ると、肩に刺さっている矢を忌々しげに引き抜く。怒りに、其の矢を凍り付かせ散らして。 「おのれ……!」  男が逃げ出した方角を睨みながら、悔しさに歯を食い縛るリン。肩の傷は軽く触れる事で、跡形無く消えたが。此の場で始末出来なかった事へ、舌打ちが出てしまう。まだ己を怒りが支配しているも、深追いは無駄な時を要する。今は何より、ジンとインが気掛かりだ。  リンは黒龍の宮殿、海の底へと身を翻す。リンが姿を消した直後、冬が訪れた其の一帯も、変わらぬ景色を取り戻したのだった。
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