乞う魂。

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 暗く、深い北の海の底。其処に在る黒龍の宮殿へと戻ったリンは、奥へと足を急がせていた。見上げる程に大きく重厚な門を潜り、脇目も振らず奥へ、奥へ。 「――リン様。お帰りなさいませ」 「お帰りなさいませ」  そんなリンへ、慌ただしく動いていた者達が改まり、順にリンへと拝をしていく。何時もならば、愛想良く笑顔を見せる筈のリンだが、其の表情は険しく、すれ違う者達も只事ではない雰囲気に儀礼も硬くなってしまう程だ。  無言で、足早に進む通路。漸く辿り着いた部屋、其の扉を守る様に立っていた優艶な雰囲気漂う女官が、リンへ改まり厳かに揖す。 「お帰りなさいませ。リン様」 「ジンとインは」  女は言葉を避け、憂える表情を浮かべる。静かに扉を開放し、再び揖すとリンを促した。リンの視線は、部屋の奥にある豪奢な寝台。最早堪らず、そちらへ駆け寄るリン。 「ジン、イン……!」  リンは悲痛な声で二匹の名を呼んで。側へと辿り着くと、まだ意識戻らぬ弟ジンの頬を震える掌で撫でてやる。  ジンは、リンにとって全てである弟なのだ。蛇と人の合いの子であったリンは、両族から常に酷い迫害の中で生きてきた。何時しか心も腐り、荒んだ日々を送って来た中、知らされた弟の存在。リンの立場からでは、持って生まれた資質を兼ね備えながらも、神使となるには厳しい罰と修練を要した。だが、一目弟に会う為だけにリンは其の全てに耐え、今の地位を手に入れた経緯もある。そんな己の出生を蔑む事も、恥じる事もせず、兄と呼んでくれたジンを心底可愛がり、溺愛していたのだから。 「どうだ……やはり、酷いか……」  遅れて中へと入って来た、側へ控える女官へ訊ねたリン。其の声は冷静に聞こえるが、女官も悲痛そうに肩を震えさせた。
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