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「はい……ジン様もイン様も、衰弱が酷く。原因は分かりかねますが、白龍様の御加護の力が、失われて居られる様で……更に、回復の兆しも見られぬのです」
其れでも気丈に、冷静にリンへ二匹の容態を報告する。リンも不可解な診断へ、眉間へ皺を寄せた。確かに、衰弱が激しかった事は、当初に確認は出来た。しかし、回復の兆しが無いとは、一体。リンも誤診の可能性に、ジンの気の流れを改めて診るが。
「……どういうことだ」
女官の報告を疑う余地無く。此れは、妙である。神使である己等は、龍の加護を与えられている。其の力は、此の身をあらゆる厄より守り保つ力。そして、其々主が司る五行の力をも纏う程の強大なもの。其の力の減退等、故意に捨てる勢いで消耗せぬ限り、通常では有り得ない。其れでも、主が力の核を取り上げぬ限り、時と共に回復が成される筈であるのに。
声を失い困惑するリンへ、女官が恐る恐る揖す。
「恐らく、御力の核に何らかの問題が……こうなっては、一刻も早く白龍様の御力が必要かと……」
静かな女官の声は最もだ。しかし、白龍は今宵、気の回復に眠りに就いている。リンは、行き場無い思いに目元を掌で覆った。何故こんな時に、斯様な事が。一体何が起きたと言うのか。頭の中には困惑しかなく。
「……黒龍様は」
其れでも、女官へ訊ねる事を。今宵は、新月に浮かれたのか空を駆けたいと出掛けた直後であったのだ。しかし、管轄下で起きた此の急な事態に、御戻り頂かねばならない。其れに何より、リンは主の声を必要としていた。黒龍ならば、何か知恵を授けてくれるやも知れぬと。
女官は、声の前に再び揖す。
「リン様と入れ違いにマオ様が直ちに、此の事態を御告げに出られましたので、程無く戻られるかと」
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