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竹が生い茂る、鬱蒼とした山奥の小さな沼。其の奥深い日の光も届かぬ其処は、此の地を守る白龍の宮殿が存在していた。本来、龍は大海の奥深くの宮殿に身をおく。だが、現在此の西の地は、人の持つ能力が急激な進化を見せ、確かな文明を築きつつあった。神にとっては、全ての生ける者は我が子同然。其の成長は喜ばしい事であるが、地の力が酷く消耗する事態へと。其れを和らげる為に、より地へ寄り添い、力を行き渡らせるべく白龍が海を出て来たのだ。
其処では、白龍より選ばれた様々な種族の生ける者達が集い、日々地へ降りた魂達の為に仕えている。只、人を除いて。中でも、最も神に近い力を持つとされている種族である大蛇は、龍の手足として側近くを許される特別な存在として選ばれるのだ。
そんな世界が広がる沼の水面には、今宵も美しい月が其の姿を映して。優しい月の光は、深い深い沼の奥迄届きはしないが、龍の瞳は何でも見える、知っている。そして、其の使い達も共に其れを感じる。
深い沼の底。此処は、龍が棲む処。沼の奥底だと言うのに、其処は光り溢れ、美しく煌びやかな宮殿。多くの生ける者が集い、其の全てが人の形となり動く姿が在る。官吏、武官、女官。沢山の魂が集う。当然彼等も、龍が認めた特別な魂達。仮の姿となりて、天の父なる帝が与えた地の為に。
そんな宮殿のある一室。其方より、美しくも切ない旋律が響き渡る。だが其処へ、突如不快な音を響かせたもので。
「――糸が……」
心地好い音を奏でていた、古箏の弦が切れた様だ。其の弦を優しく撫でながら静かに呟いたのは、インと名を持つ白龍に仕える銀色の大蛇。人の形へ身を変えた其の容貌は、男の性を持ちながら、まるで女と見紛う程の嫋やかな美貌を備え、銀色に輝く瞳は何とも優美で、其れでいて妖艶な雰囲気をも併せ持っている。其の出で立ちは、揺らめく長い袖が何とも優雅な衣。長く美しい黒髪、其の頭上へ、纏められた髪へ頂いた冠が煌めき、何とも神々しくて。
「何だ、良いところで」
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