神につかえる者。

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 先程迄、インが奏でる古箏の音を酒の肴に、盞を片手に聞き入っていた、ジンと名を持つ者が目を向ける。彼も同じく白龍に仕える大蛇で、金色に輝く身を持つ。人の形へ身を変えた其の姿は、厳格で凛々しく、射る様な金の瞳が強い印象を与える美丈夫。出で立ちも、インと同じく。 「私のせいでは無いだろう」  ジンの身勝手な物言いへ、インは少し眉間に皺を寄せた。其の瞳は不愉快そうで、睨む様なもの。しかし、相棒に睨まれた程度気にも止めぬジン。 「興が冷めたな」  溜め息混じりにそう呟くジンは、徐に立ち上がり其の身を翻す。インと同じく、頭上へ冠を頂く長い黒髪を揺らして。 「何処へ行く」  インが訊ねた。聞かぬでも分かるが、取り敢えず。 「まだ眠れぬ」  返ってきた其の言葉に、インはやはりと呆れる思いを溜め息へ乗せる。好色なジンの事、束の間の戯れに惑わすのは獣、鳥か、はたまた同族か。そして、人か。 「ジン、戯れに女を抱くのも良いが……一度位、一つの魂に心を傾けてみてはどうだ」  呆れついでに出た、インの説教。ジンは意表を突かれ目を丸くさせる。と、其の直後笑って見せた。 「何を言うかと思えば……」    最もらしいことを宣い居ると。ジンはまだ笑いが止まらぬ様で、腹を庇うように身を折る仕草を見せている。少し前迄、己もそうで在ったろうと。やがて、其の笑いの波が引いたのか、インに向き直った。 「下らぬな」  鼻であしらうかの様にそう言うジンへ、インは又眉間に皺を寄せる。其の言葉を否定するかの様に。 「汝は、恋を知らぬからだ」  少し強気なインの声が。今宵は又よく突っ掛かる事と、ジンも些か不愉快になってきた。 「知らずとも構わぬ。ひとつ何かを覚えたらば、説教とはな……此方こそ、一つ言わせて貰おう」  ジンはそう言いながら、其の表情を砕けたものから、少し険しさも入り混じるものへ一変させた。続き出たのは。 「人の娘に随分執心の様だが、余り深入りせぬ事だ……愚かな末路と成りかねぬぞ」
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