神につかえる者。

6/7
前へ
/45ページ
次へ
 ジンは、幼い頃より人への警戒心が強い。人とは、此の世で最も心を成長させた種族。其の良くも悪くもある脅威の能力は、神でさえ未知の領域と見る部分もある程。そんな事情もあり、インが選んだ者が人である事へ、眉を潜めていたもので。此の言葉も相棒を案じるが故なのだが、インときたら。 「要らぬ世話よ」  そう言って遂に顔を背ける始末。インから始めた説教だが、逆に説教をくらい不愉快であったのだろう。まるで、親に叱責食らった幼子の如くだ。そんなインの仕草に今度はジンが呆れ、軽い溜め息を一つ吐く。 「恋とは、厄介なものである様だな。尚更知らぬ方が良いわ」  皮肉をひとつ。簡単なものも見えなくなるとは、げに恐ろしき。だが、インはジンの此の言葉へ顔を戻した。 「恋とはそう言うものなのだ。其の魂を『乞う』もの……時に己を狂わせる。何にも例えられぬ程に、甘美なもの。汝とて、何時其の魂に巡り合うか……其の時、斯様な戯れを後悔するぞ」  インは、手元の古箏の弦を撫でながら、ジンへ言葉を投げ掛ける。至極神妙な表情でだ。が、ジンにしてみたらつまらぬ説教混じりの惚気に過ぎない。そろそろ解放して貰おうかと、背を向けて。 「分かった分かった……良かろう。此の心捕らえる者あらば、汝の言う事を一つ聞いてやろう。何でもな」  そんな時は来ないだろうが、と鼻で笑う声で返してやった。インは、真剣に話をしているというのにと、ジンの態度が気に入らぬ。 「汝と言う奴は……其の言葉、忘れるで無いぞ……!」  インの声が上がると同時に、ジンの背は消えてしまったが。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加