神につかえる者。

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 下らぬ説教と惚気を捨て置き、ジンは早々に己等の寝床である沼の外へ出て来た。そして、暗い夜空に浮かぶ月を見上げる。其の優しい輝きは、金色にも銀色にも見える不思議な光だった。此処で、何時だったか主が何気に溢した言葉を思い出す――月を見ていていると、汝らを思う。私は好きだ――戯れ言で有ろう、しかしジンは穏やかに微笑む。 「酔狂な御方よ……我等の様な地を這う者を、あの様に神々しい光りに例えなさる等……」  そう呟くと、月明かりに煌めく沼に背を向け足を進める。当て等無く。此の退屈を和らげてくれたらば、己も夢を見せてやろうと。  暫くすると、暗闇に其の身を抱かせたジンへ、小さな愛らしい光が降り注いだ。 「――ジン様、見ぃつけた」  闇の中、後方より聞こえた甘い笑い声に振り返るジン。闇の中で光る粉を撒きながら、舞うのは蝶。ジンが、衣の袖より指を覗かせると、素直に羽を休める。其れは、ジンの持つ力により妖艶な人の女へと身の形を変えた。ジンの手を両の手で、切なげに包んで。 「ああ、相変わらず綺麗な瞳……お暇なら、どうぞ私と……」  うっとりと目を細め、ジンの頬を撫でる女の形。ジンは其の身を優しく抱き寄せてやると、誘う様に其の唇に指で触れて。 「そうだな。では、其の前に汝の舞を見てみたいものだ……舞ってくれぬか?此の私の為に」  甘く囁く様にジンがそう言って微笑むと、金色の瞳が妖しく光放った。其の瞳に魅入られた蝶は、最早夢見心地で。 「嬉しい……ええ、勿論。貴方様の為に……――」  戯れで良い。美しく、甘い時等容易く手に入るのだから。そんな余所事を思いつつも、手に入れた一夜限りの恋に身を委ねるジン。此の戯れの時こそ満たされる。素直にそう思えていた。此の時迄は。
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