第1話 舞踏会へ

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第1話 舞踏会へ

オルグレン王国第一王子エルランド様は、これまで表立って公式の場に出てきた事がなかったため、国外ではあまりその顔を知る者はいなかった。 そのせいで、目を見張るような容姿だと言う者もあれば、見るに耐えない様相だから姿を隠しているんだという者もいた。 そういったことも相まって、今回エルランド王子がそのお妃探しにレオドル王国を訪れるという噂は、すぐさま国中に広まった。 オルグレン国王と親交の深いレオドル国王も、エルランド王子のお妃探しのために、国中の伯爵以上の爵位の家柄の、婚姻可能な年齢の娘へ、舞踏会に参加するようおふれを出した。 わたしが侍女として仕えているドナフィー公爵令嬢ミラベルも、今夜の舞踏会へと向かっている。 薔薇の刺繍をあしらった薄いピンクのドレスを纏ったミラベルは、本当に可愛い。 「ねぇ、セシリア、エルランド様ってどんなお方かしら?」 「わたしには皆目見当もつきません。今回の舞踏会には、この国の第二王子ザカリー様も参加されると聞いています。それなのに……本当にわたしなんかがご一緒しても大丈夫なんでしょうか?」 「心配しなくても大丈夫よ。大勢が参加するんだもの。バレやしないわ」 ミラベルがいたずらっ子のように笑った。 本来ならば男爵家のわたしには舞踏会に参加する資格がない。けれども、ミラベルの思いつきで、今日ここに一緒にいる。 ミラベルのいたずらなわがままを、つい聞いてしまった。 だから少しでも目立たないよう、薄いグレーに控えめな花柄のレースが縫われたドレスを選んだのだけれど、「どうか今日一日、誰もわたしに目を止めませんように」と、願わずにはいられない。
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