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マンションの自室から見える近所の大きな家。そこの庭に一本、他とは比べられない巨木が植えられている。
いつ見ても、枝には葉っぱ一枚花一輪存在していない。かといって枯れているふうでもない。
落ち葉や花弁が散らなければ、掃除の手間がかからないので、幹や枝ぶりを観賞するために植えているのだろう。
ずっとそう思っていたが、ある時、一本の枝に小さな花が咲いているのを見つけた。
俺が気づかなかっただけで、本当は、こうして花が咲くこともあったのか。
どんな花が咲いているのか気になり、目を凝らしていたら、そこに一羽の小鳥が飛んできた。
花の密を吸いにきたのだろうか。
見つめる俺の視線の先で、小鳥が花の横に止まる。その瞬間、小さな姿が掻き消え、そこに新たな花が咲いた。
あまりのことに目を疑ったが、枝には小鳥の姿はなく、新たな花が存在している。
木に触れたら花になる? いや、最初枝に止まった時、鳥は鳥のままだった。
だったら、花に触れたら花になる? 普通に考えたらありえないが、今の出来事を目撃した以上、そうとしか考えられない。
不気味すぎる仕組みの木。それに気づいて以来、部屋にいる時は暇さえあればその木を窺うようになった。
見るたび新たな花が増えている。たいていは同じ嫌いの大きさだが、たまに大きな花が生まれていることもある。
あれはもっと大きな鳥が触れたということだろうか。あるいは、鳥を捕まえにきた猫とかか?
花の大きさを窺っては、花になったのが取んな生き物なのか考える。
そんなことをしていたある日、俺はその木に、とてつもなく大きな花が咲いているのを見つけた。
あの大きさはどう考えても鳥じゃない。猫のサイズとも違う。もっともっと大きな…大きくて、木に登れる生き物…。
その日より少し前に、近所で多発していると聞いたコソ泥騒ぎ。その話を、巨大な花を見つけて以来聞かなくなった。
しばらくしたら、あの大きな花は、他の花同様に枯れてしまったけれど、元の生物はいったい何だったのか…それはきっと、追究しない方がいいだろう。
花が咲く…完
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