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キィーとドアの軋む音が聞こえて足音が近付いてきた。コツコツと響く革靴の足音で、それが誰だかすぐにわかった。
「何してるの?」
近付いてきた尾崎が尋ねる。
「え? ああ……指輪を落としちゃって」
薄暗いごみ置き場の前で蹲ったまま、乃亜は敢えて尾崎の機嫌を逆撫でする言葉を返した。
本当は、静かな場所で少しの間一人でいたかっただけだが、こんな時に、こんな男に正直に答えるのは癪に障る。
案の定、尾崎は露骨に嫌味なため息を吐いた。
「アクセサリー類は、勤務時間中は外しておくように言ってるはずだけど」
皮肉な言葉を吐き捨てそのまま立ち去るのかと思えば、さらに一歩近付いてきた尾崎が隣にしゃがみ込んだ。
「で?」
「……は?」
何が言いたいのか全くわからない乃亜は、蔑むような目で尾崎を見た。
「ごみ袋の中に落としたのか、ここで今落としたのか、それとも何処で落としたのかわからなくて探してるのか」
「ああ、多分ごみ袋の中だと思います」
乃亜は咄嗟にそう答えた。
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