シナリオの結末

2/7
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 キィーとドアの軋む音が聞こえて足音が近付いてきた。コツコツと響く革靴の足音で、それが誰だかすぐにわかった。 「何してるの?」  近付いてきた尾崎が尋ねる。 「え? ああ……指輪を落としちゃって」  薄暗いごみ置き場の前で蹲ったまま、乃亜は敢えて尾崎の機嫌を逆撫でする言葉を返した。  本当は、静かな場所で少しの間一人でいたかっただけだが、こんな時に、こんな男に正直に答えるのは癪に障る。  案の定、尾崎は露骨に嫌味なため息を吐いた。  「アクセサリー類は、勤務時間中は外しておくように言ってるはずだけど」  皮肉な言葉を吐き捨てそのまま立ち去るのかと思えば、さらに一歩近付いてきた尾崎が隣にしゃがみ込んだ。 「で?」 「……は?」  何が言いたいのか全くわからない乃亜は、蔑むような目で尾崎を見た。 「ごみ袋の中に落としたのか、ここで今落としたのか、それとも何処で落としたのかわからなくて探してるのか」 「ああ、多分ごみ袋の中だと思います」  乃亜は咄嗟にそう答えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!