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倫平との交際は順調だったが、しばらくすると「周りの目が気になる」と倫平が言い出したことで、今度は敢えてシフトが被らないように先に二人で相談してからシフト希望を提出するようになった。倫平の言う通り、他のバイトスタッフが自分たちに気を遣っているように乃亜も感じていたのだ。
そんな倫平と久しぶりにシフトが被ったというのに、倫平は顰めっ面で終始尾崎の悪口ばかり言うのだった。
確かに、尾崎は淡々としていて愛想が良いとはいえなかったが、乃亜は尾崎に対して悪いイメージを持ってはいなかった。
が、しかし――
ある日を境に尾崎の態度が急変した。
「永嶺さんは佐野くんと付き合ってるんだよね?」
不意に尾崎が尋ねてきた。
「あ……はい。あの、でもシフトは被らないようにしてるので」
「いや、そういう意味じゃないよ」
何か言いたげな表情に見えたが、その後も尾崎がその事に関して何か言ってくることはなかった。
だが、明らかに乃亜に対する当たりが強くなったのは、それからだ。険しい目つきで度々すれ違いざまに尾崎から発せられた舌打ち音を、乃亜は聞き逃さなかった。
――そういえば倫平も言ってたっけ。
乃亜は、ふと倫平の言葉を思い出した。
けれども、それを相談しようにも倫平とは昼夜逆シフトで時間が合わなかった。仕事終わりの終電間際の時刻に電話してみても、既に寝ているのか倫平は電話に出ない。いや、合わせようと思えば合わせられるはずなのだ。今まではずっとそうしてきたのだから。
乃亜は一人悶々としながらやり過ごしていた――そんな最中に告げられた別れだったのだ。
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