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乃亜の隣では、尾崎がひとつずつごみ袋を開けてはひっくり返し、ごみを掻き分けていた。それを今度は乃亜がまた袋に戻していく。
乃亜は罪悪感に押し潰されそうになっていた。
「終電逃すよ。あとは俺が探しとくから」
「あの、尾崎さん、違うんです!」
乃亜は怒鳴られるのを覚悟で心を決めた。
「ん? どうした?」
「すみません。本当は失くしてなんかないんです」
尾崎の顔を見ることができず、乃亜は下げた頭を上げれずにいた。
「……わかってたよ。いつ言い出すのかと思ってた」
「え?」
予想外の言葉に、思わず顔を上げた。
「仕事終わりの君がネックレスのチェーンから外した指輪を薬指に嵌めているのを見かけたことがあったんだ。おそらく、今も付けてるよね?」
乃亜は息を呑みブラウスの胸元を押さえた。
仕事が始まる前には、規則に従いピアスや指輪は外すようにしていた。けれど、倫平から貰った大事な指輪だけはどうしても身に付けておきたくて、ネックレスに通してこっそりと付けていたのだ。
「見えないところに付けてる物まで外せなんて、さすがの俺もそこまでは言わないよ。君は本当に真面目だから」
尾崎が微かに笑った。
「何で嘘なんかついたか知らないけど、エイプリルフールに免じて許してあげるよ」
尾崎はごみを片付けながら、当惑の表情で言った。
「あの……彼と別れたんです、今日」
「ああ、そういうことか」
尾崎が独り言のように呟いた。
「本当は彼から指輪は捨ててって言われてて……。やり場のないイライラを、おかしな形で尾崎さんにぶつけてしまいました。本当に申し訳ありません」
乃亜は正直に話して心からの謝罪をした。
「俺もずっとイライラしてたよ」
言葉に反して、尾崎の口調は落ち着いている。
「いい加減気付けよって。てか、気付いてたんだろ? 俺でも気付いたのに……あいつらのこと」
心をえぐるようなその言葉を皮切りに、堰をきったように涙が溢れた。
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