1.カールハインツの御曹司

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1.カールハインツの御曹司

空港からバスに揺られ、どれくらい経ったか。 クラウスは寝ぼけまなこで外の景色を見た。 アメリカは自由な国だ。そう言っていた父は、あまり良い顔をしていなかった。 暗い窓には、ハンチング帽を乗せた少年の白い顔が映っている。 2ヶ月前に16歳になったが、自分で年齢を知っているからそう見えるだけで、傍目には頼りない子供でしかない。より幼く見える頬と鼻の頭のそばかすは母から、オレンジに近い赤毛とぱっちりとしたブラウンの瞳は、父ではなく祖父から受け継いだ。 小さな彼が入って眠れるほど大きなトランクのクレームタグは、ドイツを出た時から貼り付けたままになっている。 バスを降りた時、外は夜遅く、雨が降っていて肌寒かった。おまけにトランクのキャスターは空港で受け取った時点で壊れており、両手で引きずる羽目になった。 アセンド・シティ。ここで降りたのは、単に名前が気に入ったからに過ぎない。世間を知らないクラウス・クップファーに、明確な目的地は無かった。 ただ野心と呼べる上昇志向とハングリースピリットで、誰もが夢を追う、刺激的な場所に思えた。とにかくここに来れば、新しい人生を始められると思いそうなものだ。 その期待は、早くも裏切られてしまった。周囲を見回してみても、暗く濡れた町が心細い街灯に照らされているばかり。ぽつりぽつりと浮かぶ猥雑なネオンサインには切れかけのものもあり、少年が想像したほど煌びやかな景色とは言えなかった。 ひとまず屋根のある所を目指し、クラウスは1軒のバーに入った。 昔ながらの煉瓦と木造で、店内は暗く、客は男性ばかり、そしてクラウスよりかなり年上だった。汚れた服を着た者、スキンヘッドでスーツを着た者、眼鏡をかけた者、髪を編み込んだ者など様々だ。 カウンターには白い髭を生やしたバーテンダーがいる。トランクを引きずって行き、ハイチェアに乗り上げるなり、彼は聞いてきた。 「こんばんは。お父さんか、お母さんはどうしたんだい?」
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