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何度か繰り返され、クラウスは堪えられず吐いてしまった。吐瀉物の臭いを嗅いだのは、3年前に急性胃炎に罹った時以来だ。
それを見た青年は嫌悪するどころか、声を立てて笑った。
「よし、立て。車に乗るんだ」
顔を持ち上げられ、雨が口や鼻を洗い流した。
体を抱えられて彼と一緒に立ち上がり、歩き出すと、ようやく周囲が見えるようになった。
そこは小さな空き地で、建設資材を捨てる廃材置き場にも見えたが、クラウスが見た事もないほど荒れた有り様だった。
スクラップ処理すらされていないアスファルト、レンガ、木材、コンクリート片がごちゃ混ぜになっていくつもの山を成し、そこへ降った雨が流れ込んでいた。そうしてできた泥の池に、今しがた顔を突っ込んでいたのだ。
青年と共によたよたと歩を進める足元には、割れたプラスチックやガラスが散乱している。鉄筋や、パイプや窓のフレームといった金属類は見当たらない。
乗り捨てられたらしき廃車まで、雑然と停まっている。タイヤは横積みにされている物もあったが、ホイールは失われている。
その中に1つだけ、ホイールと明かりがついている物があった。小さなステーションワゴンのヘッドライトだ。白い車体は廃車と変わらないほど汚れ、擦り傷や凹みだらけで、ランプも壊れているのか片方しか点灯していない。
「ねえ、“ピック・アップ”!」
「ピック・アップ! その男の子、平気なの?」
その中から、子供の声がしていた。
後部座席のスライドドアが開いているが、中は暗く、顔はよく見えない。犬の鳴き真似をしていた子供たちだろうと、クラウスは思った。
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