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2.ボトル・ドッグ
客と連れ立って店を出たのは、ちょうど東部時間で日付が変わった頃だった。
「またな、坊ちゃん!」
「この町も悪くないぜ!」
何本かのビールを通して打ち解けた彼らは、小さなクラウスに激励の言葉をかけ、それぞれの車で帰って行った。
4つのテールランプが見えなくなると、クラウスは振っていた手を下ろし、溜息を吐いた。まだ雨は降り続いて、頭に乗せたハンチング帽を濡らす。大きなトランクを引きずり、疲れと酔いにふらつく足で、町を彷徨わなければならない。
ひとまず、バスの停留所に背を向ける方角へ、宛てもなく歩き出した。
こうしているのは、クラウス・クップファーにとって初めての経験だった。生まれてこの方、カールハインツ社の関係者であるというだけで、窮屈な思いをする事も多かった。
見知らぬ景色、見知らぬ人々、その中に一人で乗り込み、夜を過ごす場所を見つける。店はどこも営業を終了していたが、そんな事実は、少年だった時期があるなら誰しも持つ冒険心を少しだけ満たしていた。
アセンド・シティの街並みは、ほとんどの建築にレンガが用いられ、その積み方にもイギリスを思わせる風情が残っていた。
それらは、奥へ進むほど寂れて行った。一般的に、建造物は古いほど価値が上がるものだが、手入れのされていない様子では廃墟とすら呼べそうだ。取り壊されずに放置されているのも、道の舗装が割れたまま整備されていないのも、この町の財政が思わしくない証拠だ。
動く車が減っていき、人の気配も薄れていく。路上で生活する者も、今夜のような雨では、どこかの屋根の下か、ネズミのように排水溝の中にでも身を潜めているのだろう。
トランクの壊れたキャスターが歩道の石畳やアスファルトの凹みに引っかかり、ローファーがつまずく事も何度もあった。雨を吸った上着と、足取りも次第に重くなる。
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