3.3つのK

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3.3つのK

雨が顔に叩きつけてくる。体は熱いが、冷や汗をかいている。心臓が破れそうなほど激しく打っていた。 「あっ!」 足がもつれて倒れ、クラウスはようやく止まった。水捌けが悪く、浅い川のようになった地面に、肩を打ち付けていた。 横になったまま体を丸める。打撲の痛みだけではなく、下になっている腕や頬がチクチクと痛む。 街灯ひとつないが、どうやら雨の中に沈んでいるのは、割れたガラスの破片らしかった。これを踏み付けて滑ってしまったのだ。 起き上がりたくとも、疲労と倦怠感に押し潰され、身動きが取れなかった。 奥歯を噛んで耐え、ひとまず胸元に手を伸ばす。いつもの癖だ。 だがそこに、肌身離さず着けている感触は無かった。 「…………」 クラウスは心臓が縮まるのを感じた。一気に冷たい血液が流れ込んできたようだった。 腕から抜け出した時、チェーンがちぎれてしまったのだろう。 全財産であるトランクもあの場に置いてきたが、戻ってくる事はないだろう。財布も身分証もなく、ここが何処なのかも分からない。 クラウスは固く目を閉じたが、涙は溢れてきた。雨と同じ、大粒の冷たい涙だった。 「ママ……」 返事などあるはずもない。それでも母を呼びながら、嗚咽を漏らして泣き続けた。 「こんな事になるくらいなら、家出なんてしなきゃよかった……」 すっかり弱気になったクラウスは、やっと後悔を口にした。母の形見を失ってしまった事が、何よりショックだった。 下着まで染み込んだ雨が体温を奪っていく。肌の感覚が遠くなり、痛みも感じなくなっていた。 「会いたいよ、ママ……」 クラウスは希望と共に、意識を手放しそうになった。 燃費の悪い車のエンジン音、金属の軋むような音、水を跳ねさせる足音にも気が付けなかった。
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