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「おい、“坊ちゃん”。こんな所じゃ寝心地悪いだろ」
またしても知らない声がしたが、クラウスはもう逃げる気力も失っていた。抵抗したところで、盗られる物などもう無いのだ。
「悪い夢だ。起きろ、“3つのK”」
濡れた頬を軽く叩かれる。肩に手が置かれ、体を揺すられる。下にガラスがあるのを思い出し、クラウスはいっそう顔をしかめた。
「ほら、まだ生きてるんだろ。それっ」
掛け声とともに腕をひっぱられ、体を起こされたかと思うと、相手の肩に腕を回し、背中を支えられる形になっていた。体の大きさも、声も、さっきの男たちとは違う。
ぼんやりとした視界の中に、覗き込んでくる顔があった。16歳のクラウスより少し大きいくらいの青年のように見えた。
「イケメンだな」
彼はそう言うなり、顔に手を添えてきた。
「でも、こっちの方がもっといい」
そして、クラウスの額や頬についていたガラスの破片を払ってくれた。荒っぽい力だったが、心まで凍えてしまいそうな少年には、とても温かく感じられた。
それから彼はクラウスからの返事がないと見ると、
「何か盛られたか? 睡眠薬とか……」
と聞いた。バーで飲んだのは、蓋を開けたばかりのビールだけだ。心当たりはないが、頭が働かず、答えられなかった。
「知らないヤツから飲み物を奢られたりしなかったか?」
改めて聞かれ、クラウスの頭には、隣の席にいた男が浮かんだ。ブロンドの隙間に覗くウインクと、派手な指輪だ。
「マヌケなやつだな。口を開けてみろ」
青年は肩に回した手で顎を支え、反対の手の人差し指と中指を揃えた。抵抗する間もなく、その指が、クラウスの口に押し込まれる。反射的に嘔吐いてしまう。
「上手いぞ。ほら、もう1回」
彼は躊躇いなく舌の奥まで指を入れてきた。噛みたくとも、力はほとんど残っていない。何をされているのか、何故こんな目に遭わされなければならないのか、聞く余裕もなかった。
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