3.3つのK

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「おい、“坊ちゃん”。こんな所じゃ寝心地悪いだろ」 またしても知らない声がしたが、クラウスはもう逃げる気力も失っていた。抵抗したところで、盗られる物などもう無いのだ。 「悪い夢だ。起きろ、“3つのK(トリプル・ケー)”」 濡れた頬を軽く叩かれる。肩に手が置かれ、体を揺すられる。下にガラスがあるのを思い出し、クラウスはいっそう顔をしかめた。 「ほら、まだ生きてるんだろ。それっ」 掛け声とともに腕をひっぱられ、体を起こされたかと思うと、相手の肩に腕を回し、背中を支えられる形になっていた。体の大きさも、声も、さっきの男たちとは違う。 ぼんやりとした視界の中に、覗き込んでくる顔があった。16歳のクラウスより少し大きいくらいの青年のように見えた。 「イケメンだな」 彼はそう言うなり、顔に手を添えてきた。 「でも、こっちの方がもっといい」 そして、クラウスの額や頬についていたガラスの破片を払ってくれた。荒っぽい力だったが、心まで凍えてしまいそうな少年には、とても温かく感じられた。 それから彼はクラウスからの返事がないと見ると、 「何か盛られたか? 睡眠薬とか……」 と聞いた。バーで飲んだのは、蓋を開けたばかりのビールだけだ。心当たりはないが、頭が働かず、答えられなかった。 「知らないヤツから飲み物を奢られたりしなかったか?」 改めて聞かれ、クラウスの頭には、隣の席にいた男が浮かんだ。ブロンドの隙間に覗くウインクと、派手な指輪だ。 「マヌケなやつだな。口を開けてみろ」 青年は肩に回した手で顎を支え、反対の手の人差し指と中指を揃えた。抵抗する間もなく、その指が、クラウスの口に押し込まれる。反射的に嘔吐(えず)いてしまう。 「上手いぞ。ほら、もう1回」 彼は躊躇いなく舌の奥まで指を入れてきた。噛みたくとも、力はほとんど残っていない。何をされているのか、何故こんな目に遭わされなければならないのか、聞く余裕もなかった。
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