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4.
「ほら、自分で足を持って、開いてみて。思い切りが大事だよ。ガバっと。ね?」
「……………」
言われたとおり、瑠璃は後ろから自分の膝を抱えると、左右に大きく開いた。
パイプ椅子の、ポリエステルの布地の座面は、当初冷たかったはずなのに。むき出しの尻を直につければ当然だろう。だがそこもすぐ、急上昇した瑠璃の体温のおかげで、あっという間に熱を帯びた。
熱い、熱い。火を噴いてしまいそうだ。
全部、凛太郎のせい。あの男のせいだ。
初めて異性に体を、しかも本来なら隠しておくべきところを見せるのだ。恥ずかしいのと恐怖で体はガチガチに強張っているのに、だが瑠璃は決して足を閉じようとしなかった。
否、閉じられない。――逆らえないのだ。
「ど、どう?」
晒された秘裂を、凛太郎は凝視する。
縁を薄い陰毛で飾った瑠璃のそこは、左右対称の整った形をしていた。陰唇の盛り上がりは低く、色も薄い。
「うん、見た目はおかしくないよ。キレイ。――じゃあ、中も見せてもらおうかな」
「な、なか!?」
「そうだよ、そこが大事じゃない。指でくぱあって開いてね」
「……………」
かかとを座面に乗せて、瑠璃は折り曲げた足をM字の形にした。尻側から手を回し、たまごの殻を割るように、裂け目を開いて見せる。
凛太郎は身を乗り出し、むしゃぶりつくように女陰を眺め回した。
「うわあ、えっち……。いや、ごめん。これはとても真面目な確認作業だったね」
陰核から尿道、膣口までが丸見えになった瑠璃のそこに、もちろん異常は見当たらない。
秘部の奥の、ピンク色をした柔肉がひくひくと蠢いている。まるでそこだけが別の生き物のようだ。
「も、もういい……?」
「まだだよ。もうちょっとよく見せて」
見せびらかされた女性器は、もちろんストレートに卑猥で楽しめる。しかし凛太郎の興奮を掻き立てたのは、恥辱にまみれて震える瑠璃のその姿だ。
上半身はきっちり服を着ているのに、下半身は裸。一見マヌケだが、フェチズムを感じさせる。そんな格好をしながら、瑠璃は白い肌を真っ赤に染め、今にも泣き出しそうな顔をしていた。唇を噛みながら、小さく震え――。
そんな彼女が、愛しくて愛しくてしょうがない。
――もっと、いじめたくなる。
「あの……。やっぱり私の、変、かな……?」
瑠璃の蚊が鳴くようなか細い問いかけに、凛太郎はにっこり笑って見せた。
「ううん、変じゃないよ。でも、ちゃんと機能するか、確かめたほうがいいかもね」
「機能……?」
「おまんこがちゃんと使えるかどうか。要件を満たしているか。濡れるか、きちんとちんちんが入るか……」
「は……?」
キョトンと目を丸くして、いかにも理解が追いついていないという風な瑠璃に、凛太郎は畳み掛けた。
「瑠璃ちゃん、オナニーしたことある?」
「……!」
瑠璃は口でこそ答えなかったが、大いに動揺したその顔が、真実を雄弁に語っていた。
「あ、やっぱあるんだね。別に普通のことだから、恥ずかしがることはないよ。――その要領で、今ここでやってみて。濡れるかどうか、ちゃんと見ててあげるから」
「そ、そんなこと、できるわけないでしょ!?」
さすがの瑠璃も憤慨したようで、怒鳴り返してくる。だが凛太郎は、忌々しいほど冷淡に応じた。
「とっても大事なことだよ? それとも、別の人に見てもらう?」
「……………………」
大事なこと。したほうがいい。――そうしなければならない。
凛太郎の主張の、言外に含まれたプレッシャーが襲いかかってくる。拒否すればそれで終わりの非常に馬鹿げた話のはずなのに、瑠璃は完全に凛太郎のペースに巻き込まれていた。
「う、うー……っ」
半分怒りの混じったうめき声を漏らして、瑠璃は自分の陰部をさわり始めた。
公開オナニー。見学者は一人だとしても、ツライものはツライ。あまりに恥ずかしくて、瑠璃が足を閉じようとすれば、凛太郎の叱咤が飛んでくる。
「ダメだよ、見えない。足はちゃんと開いたまま。――ね、瑠璃ちゃん?」
指示こそ厳しいのに、名前だけは犬かネコに語りかけるような優しい声で呼ばれれば、絆されて、言うことを聞いてしまう。
それにこれは大事なことなのだ。自分の体がおかしくないか、調べているのだから。
自分にそういいわけをしながら、瑠璃は淫らな一人遊びに没入し始めた。
人差し指と中指を合わせて、陰核を擦る。指の腹の下で、彼女の肉の芽はどんどん育っていった。
「んっ、ん……」
「クリトリス、大きくなってるのここからも見えるよ。そこ、好きなんだね。一生懸命ゴシゴシして、瑠璃ちゃん、可愛いね」
「……っ」
目に見えない手が、自分の敏感な場所をまさぐっているような錯覚がして、瑠璃は甘い吐息を漏らした。
その正体は、凛太郎の視線だ。
熱心な雄のそれが、瑠璃の肉芯をつつき、花弁を舐め、腟内に潜り込み、肛門すら眺め回している。
「み、見ないで……っ!」
目的を忘れて、瑠璃は懇願する。
内に炎を宿したように、とめどなく燃え盛る自分の体が、ひどく怖かった。
「もっと見て」。もう少しで、そんなはしたないことを言ってしまいそうだ。
自分の中にそんな危うい欲望があったことを、瑠璃は初めて知った。
凛太郎は薄く笑っている。
椅子に縛りつけられていて、体も自由にならないし、当然手も出せない。だが彼にとって、そんなことはたいしたことではないのだ。
「おまんこに指を入れて、中の様子を確認してみて」
「う……」
瑠璃は素直に中指を腟内に挿入したが、第一関節のあたりで止めてしまった。
「どうしたの?」
「こ、こわいから、これ以上は……」
「へえ。中には何も入れたことがないの?」
瑠璃はこくんと顎を引いた。凛太郎は唇の端を上げ、意地悪く微笑む。
「そうなんだ。瑠璃ちゃんはクリトリス派なんだね。いつもそうやってるの? 毎日クチュクチュ擦ってるんだ?」
「そ、毎日なんて、してない……っ! そんないやらしくないっ!」
「ほんとー? でもその手つき、すごく慣れてるじゃん? 本当はしてるんでしょー?」
「……っ」
あまりの侮辱に、瑠璃のまなじりから、遂に涙が一粒こぼれ落ちる。
気づいていながら、凛太郎は攻撃の手を緩めない。
「どうしたの? ほら、もっと触っていいよ。クチュクチュ、グチュグチュ。俺、見ててあげるからね」
「や、やだ……っ。もうやだ……!」
瑠璃は嗚咽を漏らす。
ふと、凛太郎は目を細めた。
「――嘘ばっかり。 瑠璃ちゃん、見られてると、感じるんでしょ? おまんこトロトロだよ。ほら、椅子のお尻がついてるとこ、ビショビショになってるじゃん」
凛太郎のその指摘は事実で。
パイプ椅子の座面は淫らな密に濡れそぼり、瑠璃の体は真夏の太陽に炙られたかのように火照って。
着たままのセーターの胸元を、いじっていないはずの乳首が押し上げている。許されるなら、そこも引っ掻いて、グリグリ摘んでしまいたい。そうしたらもっと気持ちが良いと、瑠璃は知っているのだ。
心臓が、雌の器に移動したかのよう。ずくずくと疼いて、もどかしい。
「違う……! ちがうもん……!」
自分はきっと淫乱だ。だが認めるのが悔しくて、瑠璃はイヤイヤと首を振る。
凛太郎は、幼子に向けるような笑顔を浮かべた。
「良かったね、瑠璃ちゃん。異常なんてないよ。君は気持ちいいことが大好きな、普通の女の子だよ。――ここには俺しかいないし、俺だけが見てるんだから、遠慮しないで。たくさん、気持ち良くなっていいんだからね?」
「やだ、やだよお……っ! こんなの……っ!」
どうして。どうして、こんなことになってしまったの。
わけが分からないよ、豆太ちゃん。
屈託なくニコニコ笑う凛太郎の前で、瑠璃は指を動かすしかない。いやらしい水音が耳に届き、こんなことはダメだと思うのに止められないのだ。
どうして。
――いや、分かっていたはずだ。
だから、ラチカンキンコウソク、したのではなかったか?
そう。梅田 凛太郎には、昔からそういう不思議な力があるのだと、知っていたから――。
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