25.どうなってんのかな

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 写真を指摘されて焦ったのか、見下ろした颯斗の頸が汗をかいたように室内灯を反射して光っている。  細い首。強く握ったらすぐに跡がつきそうだ。 「なあ」  部屋から出て行こうとした颯斗を善は呼び止めた。  呼び止めてから、その理由を探した。颯斗がぽかんとこちらを見ている。  細い二の腕がTシャツから伸びていて、はめたギプスが痛々しい。  腰も細そうだな、あの服の中どうなってんのかな。 「手伝ってやろっか?」  颯斗の挙動をほとんど無視して善は言葉を発した。  その意味を理解するのに少し時間がかかったのか、数秒たってから颯斗の顔はみるみると赤くなっていく。  恥ずかしそうで、焦っていて、ヤバい。  善は颯斗のTシャツの裾に手をかけた。顔が勝手に笑う。興奮している自覚があった。 「は、ぁあっ、い、いえっ、平気、な、なので!」 「遠慮すんなよ、脱ぎにくいだろ」 「せ、せんぱい、俺が焦ると、なんか楽しそうですよねっ」  その通りだ。 「あ? オマエだいたい焦ってんじゃん」 「そ、そ、そうで、すけど」  颯斗が後ずさる。  追い詰めると、その背中はすぐにドアに当たった。  Tシャツの裾を握る善の手を颯斗は少し遠慮がちに抑えるが、善は離してやる気にはなれない。  颯斗が顔を上げた。  焦っていて視線が泳ぎ、面白いくらい顔が赤い。  今颯斗の目に自分がどんな風に映っているのだろうと、善は一瞬だけ考えて、すぐに辞めた。 「なあ、これさ、俺がコマンド使ったらどうなんのかな」 「へっ」  颯斗が間抜けな声をあげた。  その体をドアに押さえつけながら、善の左手は颯斗のTシャツの裾をもったいつけるように掴んでいる。 「逆に俺がさ、脱ぐなっていったらどうなんの?」 「え、えっと……」 「脱ぐなってコマンド(命令)すんのにさ、俺が無理矢理脱がせたりとか」  そう言いながら善は扉に置いていた手を下ろし、ギプスをしていない方の颯斗の手首を掴んだ。 「面白そうじゃない? おまえ焦るのかな」 「あ、あの、せんぱいっ」  颯斗が腕を引いた。  善は降り溶けないほどにその腕を強く掴んだ。 「なあ」 「は、はいっ!」 「いい?」 「へっ?」  颯斗が再び顔を上げる。  視線が合い見つめ返すと、魅入られるような、それでいて計り知れない恐怖の色が颯斗の瞳に浮かび上がる。 「やってみて、いい?」 「あ、せ、せんぱいっ、い、いやです」  颯斗が善の体を押した。  だめだ。嫌がられると、余計にどうにかしてしまいたくなる。  善は距離を詰めた。  避けるように颯斗の背中がずるずると戸を滑っていく。ついに颯斗は床に座り込んでしまったのだが、それでも善は颯斗をさらに追い込むように腰を屈めた。 「なんで、いーじゃん」  善は颯斗の顎を掴み上向かせる。  眼前に顔を寄せると、恐怖と混乱で揺れ動いた颯斗の瞳から涙が溢れた。 「なあ、やってみようぜ、颯斗」  ダメだ。興奮する。止められない。  善はコマンド(命令)を紡ごうと唇を開く。しかし発する前に、颯斗が衣服を握った腕を振りかぶった。パーカーのファスナーの金具が顔に当たった。その小さな痛みで、善は我に帰った。  抑えていた颯斗の手を離し、表情を読み取られないように、善は自らの顔を手で押さえながら俯いた。 「あ、あっぁ! せんぱい、ご、ごめんなさい! 硬いとこ、当たっ……い、痛いですか⁈ け、怪我はっ⁈」  颯斗は縋るように善にしがみつき、俯いたその表情を覗き込んでくる。  見られたくない。善は顔を上げないまま、深く息を吐いた。 「大丈夫、驚いただけ」 「あ、み、見せてくださいっ、傷、顔に傷できたかも」 「平気だから、風呂入ってこい」 「せ、せんぱっ」 「いーから、行けって!」  善は颯斗の腕を振りといた。
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