27.自分のSub

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 堪えようのない感覚が湧き上がる。睨みつけると放たれた善のグレアで男はたじろぎ後ずさった。 「な、なんだよ。具合悪そうだったから介抱しようとしただけだって」  男は誤魔化すように笑いながら、トイレの外に立ち去っていった。 「大丈夫か?」  颯斗に視線を下ろすと、息苦しそうに肩を揺らし、胸元を抑えていた。  さっきのDomとのプレイが中途半端に終わったせいかもしれない。  善が膝をついて颯斗の肩に手を置くと、颯斗は縋るように善の腕を両手で掴んだ。 「せ、せんぱいっ、ご、ごめんなさい……!」 「は?」 「い、イヤだって、ちゃんと、い、言ったんです、でも、だ、ダメで……ご、ごめんなさい!」  颯斗は混乱しているようだ。その目には涙を浮かべている。  善は苛立った。  その苛立ちの理由は自分でもうんざりするほど欲望に満ち溢れている。Dom性は独占欲と支配欲が強い。もう善は颯斗を自分のものとして認識してしまったようだ。勝手にコマンドを使われたことにひどく苛立つ。本来であれば自分が颯斗を泣かせたかったのだ。 「ご、ごめっ、ごめんなさい……す、すみまっ……」 「わかったわかった、大丈夫だから」  善は颯斗の体を抱き寄せると、宥めるように背中をさする。  颯斗はその善の肩に縋り付くように顔を埋めた。まだ、呼吸が荒く、苦しそうだ。 「これ、ドロップしてんな」  勝手に何してくれてんだ、あのクソジジイ。  颯斗の体調をきにかけるより、善の意識の中にあるのは自分のSubを勝手にドロップ状態にされたことに対する苛立ちだ。  それに気づいた善は自分自身の腹黒さにうんざりしながらも、必死にそれが颯斗にバレないようにと彼の肩を支えていた。  「立てるか?」「大丈夫か?」などと声を掛けながらも、「あんなジジイにドロップさせられてんじゃねえよ」と言葉が溢れそうになる。最悪だ。  情欲が止まらない。  気がついたら、フラフラの颯斗をラブホテルに連れ込んでいた。  自分が何をしようとしているのか、思考の中でも明確に言葉にしたらもう戻れなくなる。  ベッドの下でぐったりと座り込んだ颯斗を見下ろした。しゃがみ込んで表情を覗き込むと、あんなに暑い中歩いてきたというのにその顔は青ざめていて、触れた二の腕も熱を失いひんやりとしている。  ああ、だめだ。なんかもうめちゃくちゃにしたいし、あんなよくわからない奴に泣かされた以上に泣かせたい。  浮かんでしまった言葉を、善は必死に胸の奥に押さえ込んだ。Dom性だからというだけでは済まされない自分の感情を、ただでさえひ弱な颯斗にぶつけるのは危険すぎる。   「おい、俺の声聞こえるか?」  大きく息を吐いて気持ちを落ち着けてから、善は颯斗に問いかけた。その問いに颯斗はこくりと頷いた。 「お前、多分今、サブドロップになってるから」 「はい……」  驚くほどか細い声が返ってきて、善の中のなけなしの良心が疼いた。
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