31.恋人より

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 いつも酔うとこんな風にふわふわして、すぐに眠くなってしまうのだ。  せっかく善が目の前にいるというのに、眠ってしまうのはもったいない、と、颯斗は必死に瞼を持ち上げた。  善は小さく笑うと、ついていた肘をテーブルの上で伸ばし、その腕に横向きに頭を置いた。颯斗と向かい合って、観察するかのように瞳を覗き込んでくる。  二人してテーブルに突っ伏して何だかだらしない気もするが、酔いが回って曖昧な意識でいるのはとても心地がいいと颯斗は思った。  善の綺麗な顔をこんな近くで見られるなんて、この瞼がシャッターだったら、信じられないくらい良い画が撮れたに違いない。  そう思っていたら、不意に善の瞳が間近にせまり、ゆっくりと瞼が閉じていった。  唇に柔らかくて温かく、少しくすぐったい感覚が触れる。それは数秒ほどで離れていって、また善は少し体を起こしてテーブルに頬杖をついた。そのまま颯斗の反応を待つかのようにこちらを見ている。 「イチゴの……味がしました」 「女子か!」  そう言って、善が笑った。  颯斗はむくりと頭を起こし、抱えていたクッションをきつく抱きしめた。キスされたのだ、と酔いの回った頭で認識すると、さらに顔が熱くなる。  しかし照れている場合ではないと、颯斗はすぐに思い直した。  善がキスをしてきた。ということはつまり、ヤリたいということだろう。  颯斗は息を吸い込み、善に向き直った。 「あ、あのっ」 「ん?」 「準備してきます!」 「…………なんの?」  颯斗はクッションをベッドの上に放り投げ、気合を示すように拳を握ってみせた。 「し、尻のほうの準備を‼︎」  そう言って立ちあがろうとした颯斗の肩を善が抑えた。浮かそうとした腰が、またラグの上に戻っていく。 「あ、や、やっぱり口のほうがいいですか?」  善は何も言わないまま、何やら悩ましげに目を閉じて額に手を当てている。 「あのぅ……せ、お、大崎さん?」 「うん」 「どうしました?」 「いや、これは俺が悪いな」 「え?」  何やら口元で呟いていると思ったら、善は唐突に目を開き、真っ直ぐに颯斗の顔を見据えた。 「やめよ、セフレ的なの」  きっぱりとした口調で告げた善を前に、颯斗は数秒間言葉の意味を探していた。その後で、動揺を隠しきれないまま唇を震わせ、善の腕に縋り付いた。 「な、なんで、どう、どうしてですか⁈」 「颯斗」 「俺、頑張りますから、こ、この前よりもっと上手くできます!」 「落ち着け、颯斗」 「お、お願いです! やめるなんて、いわ、言わないでください!」  気づけば目には涙が溜まって、息苦しささえ感じていた。 「違うから、颯斗、一回落ち着け」  善は興奮した颯斗の肩を両手で撫でた。 「俺の話きいて」  そう言った善に顔を覗き込まれ、颯斗はなんとか呼吸を落ち着けながらこくこくと頷いた。 「俺さ、Domじゃん?」 「は、はいっ……」  よくわからないところから話を切り出され、颯斗は戸惑った。  しかし善の様子をみるに、彼も今まさに必死に言葉を探しながら口に出していると言った雰囲気だった。 「強いのよ、Domって、独占欲とか支配欲とか」  それがDomだ。颯斗は頷いた。 「だからさ、正直イヤなんだよね」 「い、いや?」  颯斗が聞き返すと、善の視線がチラリと颯斗のスマホを向いた。少し考えを巡らせ、颯斗は善の意図を察した。 「あ、えっ、翔太のことですか⁈」 「うーん、まあ」 「あ、そ、それなら! だ、大丈夫です!」  翔太とはセフレではなくただの友達。そう言いかけて、颯斗は唾を飲み込んだ。  それを言ったら、慣れてると嘘をついたことがバレてしまう。 「も、もう、翔太とはしません! 大崎さんだけ! あなたとしかしません!……ので!」  颯斗は誓いを立てるかのように胸に手を当てた。 「まあ、うん、それは……そうしてくれ。いや、それだけじゃなくてさ」  善は歯切れ悪く言葉を濁している。颯斗は不安げに肩と眉を下げた。 「ちゃんと、付き合わない?」  颯斗は呼吸を止めた。
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