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花弁に抱かれて
もう桜の時期ではないのに、私はいつも、そこに桜が咲いているような錯覚を抱いてしまう。
ふと、風が吹いて、この身を薄桃色の花弁に巻かれ、すなわちそれが花枝の愛であると感ずるほどに、ほろり、はらりと涙が零れてしまうのだ。
花枝は大切な妹だった。三つ違いの、とても愛らしい妹だった。私のことを純枝ちゃんと称び、どこにでも附して歩く愛おしい妹だった。
あの子の澄んだ声は、未だにこの耳の奥で鮮やかに聞こえ、唱い続けている。
どのぐらいの時を経ようとも、花枝の美しい声だけは、決して忘れられない──。
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