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目の前の大先輩へ質問しようとしたとき。
がちゃ。
扉が開いて、レオンハルトが入ってきた。
「お疲れ様です」
「困ったことになったよ」
「珍しい。疲れてるんじゃない?」
イザベラが指摘すると、レオンハルトはわざとらしく肩を竦めてみせた。
「デューラー一族が行方をくらました。魔法の痕跡もない」
せっかく不法侵入までして証拠を押さえたのに、とレオンハルトは嘆く。
「それから……山脈神殿が完成したそうだ。もしかしたら一族総出で神殿を破壊しにくるかもしれない。ということで、遠征命令が下った。しかも日帰り」
移動魔法を使えばなんとか日帰りはできなくない距離ではあるが、なかなか厳しい内容である。
しかしイレーネはためらわなかった。
「わっ、わたくしも行きます!」
イレーネは、前のめりに手を挙げた。
★
青と緑を混ぜた爽やかな薄水色は、風をもたらす。
風を使った移動魔法で、イレーネとレオンハルトはあっという間に北の山脈へと降り立った。
「寒っ」
乾燥した風の吹きすさぶ地だ。
ここで守護竜は次の百年を過ごす。
主を迎える前の大神殿は乳白色に煌めいている。
イレーネは高い天井を見上げた。
神聖で、静謐で、空虚……。
「閣下」
「ん?」
「宮移しの前に、ここにたくさんの花を植えてもよいでしょうか」
「エレガントな提案だ。しかし、何故?」
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