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「地味女は地味女らしく大人しくしてろよ」
「……!」
ずきん。欠片が、痛む。息が苦しい……。
「そういえば、君の元婚約者だったか」
血の気が引いていたイレーネだったが、第三者の声に我に返る。
「つまり今は赤の他人ということだ!」
ぎゅっとイレーネはスカートを握りしめた。
動揺に気づかれたくなくて、顔を上げる。
(……そうですわね。今は、無関係の人間です)
「ええ。そのとき以来ですわ。しかし何故、魔法局にいらしたのかしら?」
「つまりはそういうことさ」
★
魔法局の局員の大半は、国が用意した寮に居を構えている。
イレーネが自室の扉の前に立つのを見計らったかのように、隣の扉が開いた。
「お疲れ様。レオンハルトが上司になったんだって?」
「イザベラ様!」
イレーネの表情が明るくなる。
イザベラ。平民の出でありながらこの国有数の魔法使いである。
レオンハルト派かイザベラ派かという論争もあるくらいだ。勿論、イレーネはイザベラ派。
「わたくし、自信がありません。レオンハルト様はパワハラだって噂も聞きますもの」
「噂は噂だよ。あいつの人柄はあたしが保証する」
「直属の上司がつくのであれば、せめてイザベラ様がよかったです……」
「あはは。そんな大役、ごめんだね~」
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