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何日かぶりに男が私を抱いた。
うしろから入れられると、つい逃げるように体を前に動かしてしまう。
いつもならそんな私を抱きしめて無理矢理に押し進めてくるはずなのに、男は今夜はぴたりと動きをとめた。
「どうした」
「なんでもないわ」
「……そうか」
再び動きが始まり私は息を吐く。
律動が始まると無意識にお腹を押さえてしまう。片腕になった拍子にバランスを崩してシーツに顔をうずめた。
とても敏感に感じるのは、久しぶりだからだろうか。いつも以上に存在感があるような気がした。
けれども今夜は我を忘れることがなかった。男とのこんな情交は初めてだった。
そんな私の異変に気づいたのか、男が動きをとめて私を仰向けにする。
「今夜はどうした」
「別に。そんな日もあるでしょう」
不意に男の手が伸びて顎を掴まれて、食い入るように見つめられる。
目をそらしたかったが、隠していることに気づかれるわけにはいかないのでじっとその視線をとらえる。
すると男は目をそらした。まるで怯えるように――そんな例えが浮かぶような動きだった。
いつも尊大な態度でいる男らしからぬ様子に私がぼうとなっていると、男が不意に真剣な眼差しで私を見つめ返した。そして私の頬に指を添えると唇に彼のそれを優しく落とした。まるで小鳥がついばむように角度を変えながらキスを繰り返す。
それまでの荒々しいものとは打って変わった穏やかなその動きに、私は戸惑いつつも心地よいくすぐったさを覚える。
しっとりとした舌に唇をつつかれ体が震えた。
歯列をちろりと舐められ思わずぞわりとなる。そのすきに男のそれに舌をからめとられて弱く吸い上げられると、体の芯もきゅうと苦しくなって腹の奥が疼いた。
私の中にいた男の欲望が狙うかのようにそこを突く。
思わずこれまで上げたことのないような甘い声が漏れた。
もっと聞かせろとばかりに男の律動が始まった。それに合わせて私もあえぐ。キスは続いていて、私は思うように息継ぎができないために顔を振って男の唇から逃げようとするが、彼が両手で私の頬を包んで唇を貪るのでかなわない。
体の奥に与えられる刺激と呼吸がうまくできない苦しさが合わさって不可思議な快感となり思考が溶けていく。いつのまにか私は嬌声をあげながらすすり泣いていた。
男は一、二度果てるのを耐えたが、やがて喉奥からくぐもった声を出すとぐったりと私に体を預けた。
そうして肩で息をしながら身を起こし、泣き濡れた顔でいる私を見つめた。
私も男の色気にあふれた彼の顔を見つめ返す。どうしてそんな悲しそうな顔をしているのだろうと思った。
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