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裕福な家の一人娘として生まれ何不自由なく育った私は、わがままで高飛車でどうしようもなく可愛げがない娘だった。
父の部下や家の使用人が私のことを嫌っていたのは知っていた。
でもそうなったのは父や母に見てほしかったからだ。
わがままを言えば振り向いてもらえる。高飛車でいれば目立っていられる。たとえ厄介なものを前にするかのようにうんざりとした顔をされても、父と母に見てもらえることが私は嬉しかったのだ。
それが叶わなくなったのは、男が私の遊び相手として私の家に出入りするようになってからだった。
彼は私より五歳年上だった。
出会った当時十五歳だった彼はとても大人びてみえる整った容姿をしていた。
そしていつも微笑んでいた。私がわがままを言ったときは優しくたしなめて、高飛車にからかったときも受け流して『お嬢さまはお元気ですね』と言って、微笑みをなくすことはなかった。
でも、その目は笑っていないことに私は気づいていた。
父親の上司の娘の手前、本音は出せずにいただけだ。時折垣間見せる怒りに満ちた目の輝きに私が気づかなかったわけじゃない。
私はその目を見るとざまぁみろという気持ちになって彼をもっと困らせてやりたくなった。
たとえ憎しみによるものであっても、孤独だった私は誰かに見られることが嬉しかったのだ。
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