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十五歳だった俺は鼻持ちならないお嬢様の面倒を押しつけられてうんざりしていた。
だが不思議と彼女を見るのは好きだった。
彼女は綺麗だった。特に大きな黒い瞳が宝石のように見えて、大人になればものすごい美人になるのだろうと思った。
彼女は俺にいつも高慢な態度をとった。子どもの面倒を押し付けられてかわいそう、私を置いて遊びに行けば?と俺しか遊び相手がいないくせに言って、それをすれば俺が罰せられると固辞すると、臆病なのねと小生意気に鼻笑った。
放蕩な父親と自己中心的な母親に振り向いてもらえなくて本当は寂しいくせに、それを素直に表に出さない。勝気で意地っ張りでかわいそうな少女。
彼女のことが大嫌いだった。怪我でもして痛い目にでも遭ってみっともなく泣きべそでもかけばいいのにと思った。そしてそんな彼女の泣き顔を想像しては愉悦を覚えた。
そうしたらある日、彼女が木登りをして落ちた。
子守係の俺は間一髪彼女を抱き止めることができたが、その時に怪我をしてしまった。小枝が手の平を貫通していた。
指骨の間だったので大事にはならなかったが、血がたくさん出た。
彼女は蒼白になった。そして涙をぽろぽろとこぼして自分の行いを詫びた。ごめんなさいを繰り返して泣きじゃくりながら、私のことを嫌いにならないでと俺に縋りついた。
もうすでに嫌いだから無理だと思ったが、彼女を安心させてやりたいという思いに突き動かされて、俺は優しく笑いながら彼女の頬をなで続けていた。
血が止まらない手がズキズキと痛んでいたが、不思議とそれよりも彼女の泣き顔の方が俺の胸を騒がせた。たまらなく可愛いと思って、下半身が疼いて仕方がなかった。
その直後、俺の父は彼女の父親の事業失敗の責任を問われ解雇された。
子守から解放されてせいせいしたという思いとは別に、俺は彼女を忘れることができなかった。
その後俺の家は貧しくなった。俺は腹を空かせながら胸の内で彼女に恨みの言葉を吐いた。今度は俺が彼女を振り回して困らせて、彼女が俺にしたように俺のことを心に刻み付けてやると誓って、美しい大人の女性になった彼女の泣き顔を想像した。
そんな矢先、俺は会社経営をしていた親戚に才能を買われて養子となり、次期継承者にまでのぼりつめた。
彼女の家が借金で困窮していると知ると、長年の願望を満たすべくすぐに行動に移したのだ。
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